欧州委員会は4月10日、前日の欧州連合(EU)理事会で承認された対米対抗関税を90日間停止すると発表した。トランプ米大統領が9日に「相互関税」を発動したものの、そのわずか半日後に、90日間にわたり停止すると発表したことを受けて、同様の対応をとった。パリ、ロンドン、フランクフルトなど欧州の主要証券市場では、米欧間の貿易戦争エスカレートの懸念が弱まったことを好感して、株価が上昇した。
フォンデアライエン委員長は米国との交渉により関税引き上げを回避する可能性を維持するための決定だと説明。トランプ大統領を懐柔して、穏便な合意に持ち込むことを目指す方針だとみられる。EUはこれまで、米国の関税引き上げに対して、まず交渉を優先するが、いざとなれば強い姿勢で対峙すると繰り返し表明しているものの、実際には対抗関税停止により腰砕けになったの見方もある。
この対抗関税は、「相互関税」に対するものではなく、米国が3月12日に発動済みの鉄鋼・アルミニウム関税(25%)に対するもので、税率を同じ25%とし、200億ユーロ超の米国からの輸入品を対象としている(EUの2024年の米国からの輸入総額は3570億ユーロ)。米国側はEUに対して、すでに鉄鋼・アルミニウム関税のほかに、自動車関税(25%)、「相互関税」(EUには20%)のうちの一律10%(5日に発動済み)を課している。この3弾の関税砲に対して、EU側は現状では対抗措置の第1弾を自粛し、自動車関税と「相互関税」への対抗策はまだ決めていない。
現状で米国に正面から対抗しているのは中国だけで、トランプ大統領は、中国に対しては、追加関税率を矢継ぎ早に引き上げている。欧州では、このまま米中両大国が貿易戦争に突入した場合、対米輸出の道を閉ざされた中国製品が捌け口を求めて欧州に大量に流入し、価格競争が激化するのではないかとの懸念が強まっている。