ルノー:スナール会長、「自動車産業は曲がり角にいる」と指摘

投稿日: カテゴリー: 欧州自動車・モビリティ情報

仏大手地方紙ウエストフランスがルノーのスナール会長のインタビューを掲載した。スナール会長はタイヤ大手ミシュランの経営者だったが、ゴーン前会長が2018年11月に逮捕された後、その後任に任命され、ルノーおよびルノー・日産・三菱自アライアンスの立て直しに努めている。スナール会長は、自動車産業こそがクリーンモビリティを可能にするソリューションだと主張している。以下は談話の概要。

問:自動車産業は「システミックな」革命を経験しつつあるとのことだが、その理由は?
答:自動車産業はその歴史の曲がり角にいる。まずエネルギー移行があり、これは義務的なもので、非常に速い速度で実現しなければならない。それと並行して、自動車は「走るソフトウェア」になりつつあり、走る乗り物の域を超えて、根本的に変化しつつある。
さらに3つ目の挑戦があり、それは利用法の進化だ。顧客はもはや必ずしもクルマのオーナーではない。そのため、我々としては、収益可能性が分からないまま、新たなサービスを開発することを余儀なくされている。デジタルサービスでは無料であるほど、ビジネスはうまくいくが、製造業ではこのような無料化は難しいため、適切な均衡を見出す必要がある。

問:そのような変化に対して、メーカーの準備は十分に整っているのか?
答:現状では自動車部門のスタッフの8%程度が電子やソフトウェアという新分野で働く能力がある。この割合を早期に30%以上に引き上げる必要がある。そのために、我々は1万2000人近くに、こうした新技術に関する訓練を施す予定だ。向こう5年間では4万人程度を育成するかも知れない。
しかし、この問題は単独では解決できない。幸いにして、我々はダッソーシステムズ、タレス、STマイクロエレクトロニクスなどと提携しており、これは極めて重要だ。しかし我々にとって最も重要なのは、このエコシステムの脇役に留まることなく、中心的な役割を取り戻すことだ。「ほかから集めた部品を組み立てるだけのメーカー」というイメージから脱却する必要がある。ルノーを含む自動車産業は長い間、必要な製品の供給を外部に任せてきたが、それはもうおしまいだ。

問:自動車産業は新型コロナウイルス危機による販売の大幅減に続いて、半導体不足による危機に見舞われた。状況は深刻か?
答:何かが起きるたびに怯えていてもしょうがない。こうした危機は追加的な挑戦だが、フラストレーションもある。もしこの危機がなければ、ルノーの業績回復はもっと目覚ましいものだったはずだからだ。実際には工場の半数が時折操業を休止した。ただし、危機への適応力を発揮できたので、これは今後に役に立つ。2週間、あるいは1週間しか先が見えない状況で前向きかつ柔軟に適応した工場のスタッフに感心している。問題の解決に挑むことで、負けまいとする強い意志が生まれつつある。

問:中国はバッテリーに続いて自動車を欧州でも販売し始めた。中国製品との競争を恐れているか?
答:私は就任早々に、中国との競争に警鐘を鳴らし、注意しないと泣くはめになると警告した。予想していたことが今起きつつある。私はミシュランの経営者として同じことを経験した。2012年から2018年にかけて欧州のタイヤ市場における中国製品のシェアは5%から30%へと伸びた。タイヤの場合は、高品質タイヤによって差をつけることで対抗できたが、自動車の場合は話が違う。中国製自動車は技術水準が高い。

問:半導体不足のせいで、自動車業界は、需要が多いのに、生産を休止しなければならなかった。誰の責任か?
答:全員に責任があり、集団的な甘さがあった。長い間、グローバル化と各地の経済の相互接続によりどんな問題でも解決できると信じてしまい、外部への依存を簡単に解決できる問題だと考えていた。今回の危機で、それが間違いだと分かった。外部に依存すればあまりに脆弱になるので、これはもう許されない。

問:欧州は必要な半導体を自力で生産できるのか?
答:これは能力の問題ではなく、反応力の問題だ。米国も中国も半導体の生産に大規模な投資を行っているが、欧州は同じ力や同じ手段を注いでいない。今すぐに、早急に対応する必要がある。水素についても同じで、アジアや米国が巨額の投資を行っているのに欧州は遅れている。

問:バッテリーに関して、アジアのシェアが圧倒的だ。欧州はどうすればアジアに対する遅れを取り戻せるか?
答:それはもう終わった戦いだ。本当の戦いは、未来のバッテリーをめぐる戦いだ。つまり、EVの航続距離を延ばすことができる全固体電池をめぐる戦いだ。これについては、まだ遅すぎない。ルノーの場合は、日産が出資している中国グループ(エンビジョン)と提携しているが、フランスでもベルコール(Verkor)などと提携している。ベルコールはグルノーブルのスタートアップ企業で、ルノーは同社とともに特殊な技術の開発に大規模な投資を行う。開発された技術は我々に所有権がある。戦いに勝つことは可能だ。

問:フランスの自動車メーカーは、異なる動力方式の開発で遅れをとったのではないか?
答:遅れを取ったかどうかは知らないが、内燃機関エンジンでは世界的に優れているし、そのことが過小評価されてきた。内燃機関エンジンにおいて、収益性、燃費、排ガス性能などの点で、極めて優秀な技術レベルに到達したので、現在の変化を残念がる向きもあるが、それはもう終わったことだ。

問:せっかくの技術を無駄にするのは残念だという気持ちがあるか?内燃機関エンジンを改良しつつ、より緩やかに移行することは可能だったか?
答:可能だが、過ぎたことを悔やんでばかりもいられない。しかし、同じことが今後も繰り返されてはならない。自動車産業は悪者にされて、あらゆる方面から攻撃され、敵視されて、あらゆる悪の根源のように言われてきた。自動車産業側の言い分は無視されてきた。こういうことはおしまいにしなければならない。自動車産業は環境問題の根源ではなく、むしろ解決であり、そのことを証明してみせる。

問:ステランティスのタバレスCEOは、政治家はCO2排出削減目標を定めるだけにして、目標達成のための技術については口出しすべきではないと述べているが、この意見に賛成か?
答:当局の役割はルールを制定することであり、エンジニアを動員してソリューションをもたらすのが我々の役割だ。ただし、両者を切り離すことはできない。官民パートナーシップが自動車産業の強みで、まともな国はどこもこれを実践している。ドイツの強みもそれだ。米国でもテスラは連邦当局の支援を得ている。中国では官民協力が制度化されている。

問:フランスではどうか?
答:フランスではその重要性を理解するのが遅れたかも知れないが、進歩がみられる。国が代表を派遣しているルノーの取締役会での作業を見るとそれがわかる。電動化の移行期におけるEV購入補助金は、賢い官民パートナーシップの一例だ。

問:ルノーは内燃機関エンジンを段階的に放棄する過程で、関連の下請け企業を見捨てている。SAMがその典型例で、政府から批判されているのではないか。
答:確かにルノーは批判されているし、それを受けとめなければならない。しかし、ディーゼル車の終焉のしかたは、やってはならないことの典型だ。影響をしっかりと分析せず、予見されていなかった社会的問題を招いため、対処することが非常に難しい。社会問題、雇用の変化、求められる能力の変化などをきちんと考慮しつつ移行しなければ、うまくいかない。無用な苦痛を避けるべきだ。

問:ルノー・グループは2020年に17万人の従業員のうち、1万5000人近くを削減するプランを発表した。2021年には2000人の削減が追加された。今後も追加削減があるのか?
答:私が就任した時点では、緊急を要する状況において未来を準備するために、厳しい決断を下さなければならなかった。自動車産業は今後もまだ再編を行う必要があるが、先を見越しつつ行えば問題はない。2021年の削減プランはルノーの人員を生産能力に合わせて調整するのが目的で、そのために事務職を中心に2000人を削減したが、同時に、技術畑では2500人を新規採用することを発表した。さらにバッテリー生産部門での直接・間接の雇用も創出する。将来のビジョンに応じて均衡を回復した形だ。

問:コダン鋳造所(350人)のように売却した事業もあるのでは?
答:それは不可避だが、職業訓練や希望退職制度などを通じて、従業員をフォローしている。しかし、自動車産業は再編の必要があり、ルノーだけが全ての負担を引き受けるわけにはいかない。

問:どういう意味か?
答:フランスの自動車部門は多数の小企業で構成されている。こうした企業は優秀な技術を持っていることもあるが、規模が小さいため、現在の世界では十分な競争力がない。ドイツの中小企業と比較するとわかるが、フランスの自動車部門はそれを構成する企業をもっと統合する必要がある。

問:マクロン大統領は自動車メーカーが十分に協力してこなかったと批判しているが、どう思うか?
答:大統領は、ドイツの強みである均質で、強く、結束の固い自動車産業をフランスでも実現したいと望んでいる。フランスの現状は違っているが、改善への意欲はある。自動車産業の関連アクターを結集した業界団体PFAの創設にもそうした狙いがある。将来的にはメーカーとサプライヤーの関係を改善する必要がある。

問:日産および三菱自動車とのアライアンスは3年前から死に体のように見えるが、実際にはどうか?
答:以前はアライアンスの話題といえば常に大きな困難のことだった。現在はアライアンスが話題になることは減ったが、それは状況が改善したからだ。1年半前まではそうではなかった。アライアンスの会長として私は3社間の調和に努めなければならない。アライアンスは、現在は活気を取り戻しつつある。新型コロナウイルスにもかかわらず、アライアンスの力は強化された。

問:11月の初めに日産のCEOを迎えて協議したが、どのように対話を再開したのか?
答:アライアンスの存続が危うく、不満も強い状況を考慮し、我々は根本的なリセットを試みた。アライアンスオペレーティングボードという共通の組織を創設し、毎月2回の会合を行っている。ボードは3社の主要な経営幹部2人ずつで構成され、非常に強力だ。私は議長を務める名誉を得ているが、ボードのおかげで、アライアンスの雰囲気は完全に変わりつつある。

問:新たなシナジーがあるか?
答:大きなシナジーが見込まれる。例えばアライアンスの全てのEVに同じサプライヤーから調達するバッテリーを用いて、バッテリーを統一することが一例だ。バッテリーはEVのコストの4割を占めるだけに、これは意味が大きい。電子アーキテクチャーについても類似の協力を進めている。

問:三菱自動車は欧州から撤退することを検討していたのか?
答:そうだ。欧州で収益性を確保できていなかったからだ。しかし我々は、三菱自動車の製品をルノーが製造することで、三菱自動車が期待していた収益性をもたらすことができると説明し、三菱自動車は欧州にとどまった。これはアライアンス参加企業の間に透明性と誠実さの意志があることを示す好例であり、アライアンスから最大限の利益を引き出そうとする明確な意志が新たな次元に達しつつあることを示している。

問:過去にはルノーは「ゾエ」、日産は「リーフ」と各々がEVを開発し、共通性がなかったが、こういう時代は終わったということか?
答:そのとおりだ。ただしそれは、各社が独自のブランド、独自の力や顧客を持ち、地理的カバーで補完性を発揮することを妨げるものではない。日産車が必ずしもルノー車に似ていなくても当然だ。重要なのは共通部品の数が多いことだ。近いうちに、3社のクルマの85%が完全に共通な3つのプラットフォームで生産される。例えば「ルノー・メガーヌE-Tech」は日産の新型電動SUV「アリア」と同じプラットフォームで生産される。ちなみに、メガーヌE-Techは素晴らしいクルマで、テスラにも引けを取らない。

問:国がルノーの株主であることはプラスかマイナスか?
答:マイナスになることは決してない。ルノーと国の各々が自分の役割をしっかりと把握すれば、素晴らしい組み合わせになる。国はルノーを保護する役割を果たしてきたと私は考えている。ルノーは国の決定に干渉すべきではないが、国も必ずしも日々の企業経営に口出しすべきではない。

問:ルカ・デメオCEOが2020年に就任したが、この人選を支持したか?
答:支持した。ルカは自動車分野で、世界有数の人材だ。能力が高い上に、情熱がある。我々は効果的なデュオだ。自分が注目されることを望まず、ルノーの将来とアライアンスの繁栄のためにひたすら努力している。

問:ダチアが中国に参入するには手遅れか?
答:ダチアのフルEV「スプリング」は中国で生産されている。これは中国車と競えるクルマだ。しかし、ダチアブランドを中国で定着させるには、道のりは長いし、いますぐに必要かどうかも疑問だ。中国のような国に進出するには、技術的に先行する製品が必要だ。

問:誰もがEVやハイブリッド車を買えるわけではない。汚染度の低い代替燃料は移行を加速できるか?
答:過去にすでに試みがあったし、エタノールもあるが、40種類もの異なる技術を同時に開発するわけにはいかない。膨大な資源と投資が必要になるからだ。ある時点で、何を開発するかを選択する必要がある。我々は内燃機関エンジンを放棄し、電動化に向かうと決めたので、その方向に注力する。それだけですでに大変な仕事だ。

問:フランスはEV充電設備が不足しているが、国の支援が不十分だったのか?
答:そうとは言えない。国は整備プランを開始したが、少し遅れている。ただし、現在のままのペースを維持するわけにはいかない。充電設備は本当に足りず、2万基以上を早急に設置する必要がある。自動車メーカー、エネルギー供給事業者、政府が整合性を持って取り組むべき課題だ。この課題を解決できなければ、顧客はEVの利用に踏み切らないだろう。

問:雇用に関して難しい決定を下さざるを得ない中で、企業の社会的役割や存在理由を保つことは可能か?
答:両立可能だと考えている。ルノーの存在理由は「イノベーションの心臓を鼓動させ、モビリティによって人々の距離を縮める」ということであり、これがルノーの企業戦略の橋頭堡でもある。一方にCSRがあり、他方にビジネス戦略があるという時代は終わった。CSRと戦略は同じものだ。ビジネス上の選択が存在理由に合致していなければ、信頼性を失い、モチベーションを見失う。

問:スローガンや意思表示を超えて、日常業務で変化はあるか?
答:企業の存在理由は上から押し付けるものではなく、従業員が自分のものとして引き受けるべきものだ。6万人の従業員にこれが浸透するまでに1年半を要した。企業の行動に反映されなければ、それは単なる言葉や概念でしかない。だが、これは非常に具体的なものだ。例えばミシュランの業績が近年に大きく改善したのは、従業員が仕事に意味を見出し、モチベーションが増して、コミットメントが強まったことが根本的な理由だ。ミシュランで経験したことをルノーでも早期に実現したいと考えている。

ouest-france.fr 2021-11-15