オーストラリア潜水艦契約打ち切り:仏政府に打撃、外交問題に

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オーストラリア政府が仏ナバル・グループへの潜水艦発注契約を解消した件は、フランス政府に大きな動揺を与えている。ルドリアン外相は16日、フランスアンフォとのインタビューの中で、「背後から刺された」ようなものだと強い調子で遺憾の念を表明。オーストラリア政府に翻意をさせたバイデン米政権について、「トランプ時代のような一方的で突然、かつ予測困難な決定だ」と非難した。ルドリアン外相は、契約獲得時には国防相を務めており、味方に裏切られたという強い失望の念をうかがわせた。
フランス政府は、海外領土を持つ太平洋地域の防衛と中国の脅威への備えとして、インドとオーストラリアとの関係に足場を置いた戦略を進めていた。オーストラリアの潜水艦契約はその意味で、経済的な理由にもまして重要性を帯びていた。米英が戦略的な提携関係の中にオーストラリアを取り込んだことで、フランスとしてはアジア太平洋地域における足がかりを失う格好になる。欧州連合(EU)を離れた英国にしてやられた感があるのもさることながら、同盟国であるはずの米国が事前の根回しもなく重大事を決めたことにフランス政府は不快感と不信感を強めている。
米国のバイデン政権としては、アフガニスタンからの撤退に絡む混乱で内外に動揺が走る中で、対中国の安全保障におけるリーダーシップを発揮し、同盟国の信頼感を回復する必要に迫られていたとも考えられる。フランス側では、まさにそのアフガニスタン撤退に続いて今回の事件が起こったことで、米国への不信感を強めており、欧州の防衛面における自立性の向上の必要性も強く認識されるに至っている。フランス政府が今後、持論である欧州防衛の確立を欧州諸国により強く働きかけてゆくことも考えられる。