サッカー試合とオランダの政治危機

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

7日にアムステルダムで行われたサッカー試合がオランダの政治危機を誘発した。UEFAヨーロッパリーグのアヤックス
対マッカビ・テルアビブ戦に際して、イスラエル人サポーターがパレスチナ支持者らに襲撃されるという事件があり、
これに関して、連立与党の主軸である自由党を率いるウィルダース下院議員が、襲撃したのは「イスラム教徒」「モロッ
コ人」などと発言して波紋を投じた。さらに11日の閣議でも「人種差別的」発言が聞かれたと批判して、モロッコ生ま
れのノラ・アチャバール財務相(42)が辞任した。アチャバール氏が所属する中道派新党「新社会契約(NSC)」は下
院で20議席を占め、同党が連立から離脱した場合、残りの3党だけでは過半数割れとなる危機的状況が生じたが、緊急
会合の後に、スホーフ首相は4党の連立が継続すると発表。NSC所属の他の閣僚は残留したため、当面は連立政権の崩
壊は回避された。モロッコ出身の女性を重職である財務相に起用することで、多様性をアピールした格好のスホーフ政
権だが、中東紛争を機に再燃しているユダヤ人とイスラム教徒の対立を背景とする人種差別論争によってあっけなく揺
さぶられる脆弱性を露呈した。スホーフ首相は政府内に差別的発言はないと弁明しているが、ウィルダース議員と自由
党がイスラム教徒に差別的であることは欧州の常識だろう。それを承知の上で入閣したのだから、アチャバール氏もい
まさらムキになる必要はなかったのではないか?法律家・司法官出身で、政治家としては新米のアチャバール氏として
は、簡単に看過できない問題だったのかも知れないが、人種差別は世界のいたるところにまんべんなく遍在しており、
消滅することは期待できない。差別発言が聞かれるたびに辞任していたら、政治家はつとまるまい。