アフリカでの女性起業率は24%に達する。大家族を抱え、学歴もなく、雇用と収入源を自分で生み出さざるを得ない状況から生まれる起業もあれば、先進的なデジタル技術をてこに、住民の医療や中小企業の活動を新しい方式で支えようとするイノベーティブな取り組みもある。こうした女性たちに能力強化と資金調達の機会を提供することが、アフリカ支援の柱の一つである。
アフリカの女性については、力強く明るい印象と同時に、封建的な慣習や、貧困、子育ての重圧に打ちひしがれ、内戦があれば真っ先に犠牲者となるといったイメージもあるが、近年、起業家としてアフリカ経済と社会の発展の先端に立つ女性が増えつつある。
コンサルティング大手ローランド・ベルガーは2018年9月、「女性のエンパワーメントへの道?」という副題付きで、アフリカの女性起業家についての調査リポートを発表した。これによると、アフリカ大陸で生活する18~64歳の女性3億1200万人のうち24%が起業しており、アフリカで創出される富の65%、額にして1,500億~2,000億ドルが、これら女性起業家のイニシアチブから生み出されている。起業率24%という数字は、中南米(17%)、北米(12%)、東南アジア・太平洋地域(11%)のそれを大幅に上回るものである。
2013年の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)では、日本政府による具体的なアフリカ支援の一つとして「アフリカ女性のリーダーシップ、管理、起業における能力強化」が盛り込まれ、その一環として「日・アフリカビジネスウーマン交流プログラム」が立ち上げられたことも特記しておきたい。
アフリカの女性起業家と一口に言っても、事業分野も規模もさまざまであり、資金調達がかなわず失敗する例も、あるいは反対に、市場の拡大を追い風に急成長を遂げる例もある。その成功例の代表格の1人が、カカオ豆輸出でシェア30%を誇るTelcar Cocoaを率いてきたカメルーンの実業家ケイト・カニイ=トメティ氏だ。30年以上前に同社を設立したカニイ=トメティ氏は、生産者協同組合の組織「コープ・アカデミー」を運営して品質保証に力を入れる一方、米国の穀物商社大手カーギルを共同出資者に迎えるという辣腕(らつわん)を発揮。米フォーブス誌の「アフリカで最も影響力のある女性トップ10」にもランキングされている。
また、近年では、デジタル技術を活用した斬新な取り組みで頭角を表す女性も多い。ローランド・ベルガーの調査で紹介されているのがナイジェリアのヴィヴィアン・ヌワカ氏だ。ヌワカ氏が2012年に設立したMedSafは、最先端のブロックチェーン・テクノロジーを利用した医薬品サプライチェーン管理ソリューションを病院・薬局向けに提供するスタートアップである。
アフリカで偽造医薬品がまん延していることは周知の事実であり、ナイジェリアでは医薬品の半分近くが偽造品か不適合品とされる。ヌワカ氏は、自分の友人が偽造のマラリア薬を服用して死亡したことをきっかけに原因の追究に乗り出した。そして問題の背景にはサプライチェーンの無秩序があることを突き止めた後、国内の病院・薬局を「信頼できるサプライヤー」と結ぶネットワークの構築に乗り出した。2017年末現在、約300の病院・薬局がMedSafのプラットフォームと契約しているが、実際にMedSafを通じて購入を行っている病院・薬局はこのうち60ほどで、売り上げは月額1万5000~2万ドル。設立資金10万ドルを自己調達した後、今度はシステム改善と事業規模拡大のために新たに15万~20万ドルの資金が必要と見込まれており、その調達が次の大きなチャレンジとなる。
同じくデジタル分野で最近100万ユーロ規模の資金調達に成功したのが、セネガル生まれのファトゥマタ・バー氏である。同氏はフランスで大学教育を受けた後、中国留学、欧州の大手通信・IT企業勤務を経て、ナイジェリア発のEコマースグループJumiaに入社。Jumiaのコートジボワール支社設立、Jumiaナイジェリアの経営に携わった後、この2018年4月に今度は自分の「Janngoプロジェクト」を立ち上げ100万ユーロを調達した。フランスで最終学位を取得してから100万ユーロを調達するまで9年間である。バー氏によれば、このJanngoプロジェクトは「アフリカ初のソーシャルな性格を持つ『スタートアップ・スタジオ』」である。具体的には、中小企業がターンキーで使用できるデジタルソリューションを普及させるべく、新ソリューションの試験を行う企業チームを自己資本で維持し、試験で実用性が確認されたソリューションを市場に普及させ、直接間接の雇用創出につなげる。Janngoとはプル語で「将来」を意味するという。
ヌワカ氏のMedSaf、バー氏のJanngoのいずれにおいても、医療、中小企業、雇用創出と社会的な関心が明確に打ち出されている。ローランド・ベルガーの調査では「経営者が女性である企業は、そうでない企業より採算性が34%高い」との数値が出ているが「女性が企業内の高いポジションに就いた場合、より公正で連帯性があり、かつ、より採算性の高いマネジメントモデルが創出される傾向が強い」とも指摘されている。
なお、一般的に、アフリカでは英語圏諸国の方がフランス語圏諸国より経済活動が活発で自由主義であるというイメージがあるが、サハラ砂漠以南諸国における女性の起業率は英語圏が27%、フランス語圏が26%とほぼ同率、アンゴラ、モザンビークなどポルトガル圏でも22%に達している。むしろ、経済の発展度ではサハラ以南各国のはるかに先を行く北アフリカ諸国(エジプト、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど)の女性起業率が8%と格段に低いのが目立つ。これは北アフリカ諸国では女性に対する宗教的、伝統的制約が極めて強いためである。上述のカニイ=トメティ氏は英語・フランス語が共存するカメルーンの英語圏地域の出身である。
他方、これらの女性起業家は必ずしも、社会的環境に恵まれているが故に起業家精神を発揮できたわけではない。むしろ、識字率が低い国ほど女性起業家が多く、また、女性起業家には多くの子どもを持つ女性が多いこともローランド・ベルガーの調査で統計的に確認されている。つまり、雇用市場へのアクセスが困難で、たくさんの子どもや大家族を養う必要に迫られたとき、唯一残った生き残りの選択肢として起業する女性も増えるわけである。とはいっても、十分な教育を受けていない女性が起業した場合、教育の欠如が将来的な事業の発展を妨げるハードルになることも多く、このような女性の能力強化のためのトレーニングが必要である。
起業家にとっては、男女を問わず一般的に資金調達が事業発展の大きなチャレンジである。Global Entrepreneurship Monitorの2017年の調査によると、アフリカの女性起業家の30%近くが資金調達の困難を理由として挫折している。ローランド・ベルガーのリポートでも、貸し手である金融機関側に圧倒的に男性が多いこと、融資審査に当たって女性には男性より多くの提出書類が求められるなどの異なる待遇について指摘されている。
ところで、上述のように北アフリカでの女性の起業比率が低いことは事実であるが、だからといって経済界で活躍する女性がいないわけではない。例えば、モロッコ財界の総帥といえるモロッコ企業総連合会長は「アフリカで最も影響力のある女性」の1人にも挙がるミリエム・ベンサラ=シャクルン氏である。同氏はフランスでの勉学の後、米国で経営学修士(MBA)を取得してモロッコに戻り、間もなく、父親が創業したモロッコの一大コングロマリットGroupe Holmarcomに入社。23歳にして傘下の大手ミネラルウオーター関連企業のトップに着任した。同族経営の大企業という強い後ろ盾があったとはいえ、仕事へのエネルギー、人柄、交渉手腕など、国を代表する経営者団体の代表として、確固たる評価を確立している。
もう1人、これはサハラ以南の女性だが、日本滞在の機会に学んだ「カイゼン」方式(トヨタ自動車の生産方式)を産業部門で徹底させようと力を尽くしている女性起業家がいる。カメルーンのドゥアラで同国初の金属部品メーカーMSMIを創業、経営するオードレー・シコ氏である。シコ氏がMSMIを設立したのは2003年、日本に滞在したのは2014年。MSMIは今や、石油や航空機部門大手向けの金属部品を製造する希少なメーカーに成長し、85人を雇用、年商91万5000ユーロを上げる。シコ氏は国際連合工業開発機関(UNIDO)のアドバイザーにも任命されている。
(初出:MUFG BizBuddy 2019年1月)