4年前に世論を震撼させたイスラム主義者による教員斬首事件に関与した8人の被告人に対する裁判が開始した。犯人の
チェチェン人は警官隊により射殺されているが、犯人の行動を引き起こした事件の歯車が回り始めたのは、被害者のサ
ミュエル・パティさんに関する女子生徒の嘘がきっかけだった。自らが出席すらしていなかった授業風景を父親に語る
ことで、パティさんをイスラム教の冒涜者に仕立て上げ、イスラム主義者らの標的にしてしまった。11月4日に開始し
た裁判は、事件に関与した成人が対象で、事件当時に13才だった女子生徒を含む未成年の関与者6人はすでに昨年末の
裁判で軽い処罰を受けている。今回の裁判でどのような判決が出るかわからないが、被告人たちに罪の意識があるかど
うかは疑問で、むしろ正義は自分たちの側にあると今も信じているのかもしれない。仮に重い判決(最高は終身刑)が
下ったとしても、それによってイスラム主義が社会に及ぼす脅威が減るわけでは全くない。むしろイスラム教徒コミュ
ニティの被害者意識を掻き立てて、逆効果になるかも知れない。信仰を背景とする犯罪の前に司法は無力だ。
裁判が開始した4日には、今年のゴンクール賞(フランスの芥川賞)の受賞者も決まった。アルジェリア出身のカメル・
ダウド氏が受賞した。今年はアルジェリア戦争開始の70周年で、11月1日に記念式典が行われたばかりであり、アルジ
ェリアの内戦(1992-2002)を題材とするダウド氏の小説が受賞したことに、いささか政治的な意図も感じられないわけではないが、カミュの名作『異邦人』にアルジェリア人の側から独自の視点を突きつけた異色作『ムルソー再捜査』でデビューした同
氏が優れた作家・ジャーナリストであることに異論を唱える人はいない。同氏は長年にわたってイスラム主義と粘り強
く戦ってきたことでも知られる。この授賞には、フランス社会のイスラム主義に対するささやかな抵抗の意味合いもあ
るかもしれない。