21世紀にマルクスを読む

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

斎藤幸平東大准教授のベストセラー『人新世の「資本論」』がフランス語にも翻訳され、多数の新聞・雑誌でその内容
が紹介されている。斎藤氏はドイツでドイッチャー記念賞を受賞するなど、すでにマルクス研究者として国際的な評価
を得ており、同氏が晩年のマルクスの未刊行の文献を精査して描き出した環境保護や自然保護などのテーマに取り組む
マルクスの姿は確かに21世紀にふさわしいもので、旧ソ連などのいわゆるマルクス主義を通じて我々が知っていたマル
クス像とは大きく異なっている。とても新鮮だ。斎藤氏自身も、ユーチューブなどに出演したのを見る限り、昔のマル
クス主義者と正反対で、教条的なところのない好漢だ。環境問題に関するマルクスの考察は長い間未完のままで、直接
には後世に影響を及ぼさなかったのだから、それをいまさら発掘することに、純粋なマルクス研究以外の視座からどん
な意味があるのか、という疑問も感じないではないが、『人新世の「資本論」』は非常にリーダーフレンドリーで、一
晩で一気呵成に読了してしまうタイプの好著だ。筆者も同著を読んで触発され、マルクス関連のほかの本を泥縄式に読
んで無知の穴を埋めようとあがいている。内田樹・石川康宏両氏の『若者よマルクスを読もう』なども読んでみたが
(若者じゃ全然ないけど)、残念ながら筆者はこれらの著者が絶賛するマルクスの文章に格別の興奮は覚えない。むし
ろフロイト(こちらも時代遅れとみなされているが、未公表の原稿や書簡が公開されれば再評価があり得るのか?)と
似て、どこまでも恣意的な議論・理論の羅列をレトリックでうまく包んでいるだけではないかという印象だ。錬金術や
占星術とどこが違う?それにしても、あれほど多くの頭の良い人々がどうして揃いも揃ってこんな杜撰な理論や主張に
なびいたのだろう?マルクス主義や精神分析が20世紀にあれほど強い影響を発揮したことの理由を突き止めることのほ
うが筆者には興味深いことに思われるが、そのためにも、もう少しマルクスを勉強してみるかな、とも考えている。