アフリカのデータセンター設置動向

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

モバイルデジタルの利用が加速するアフリカでは、最近のクラウドや人工知能(AI)などの発展に伴い、今後、データセンター事業の急速な拡大が予測される。アフリカへのデータセンター設置にはさまざまなハードルが存在するが、電力供給問題については、太陽光、風力、地熱といったアフリカに豊富な再生可能エネルギー資源を活用する大型プロジェクトが次々と出現している。

いわゆるGAFAM5社(Google、Amazon、旧Facebook(現Meta)、Apple、マイクロソフト)のデジタルプラットフォーム(DPF)が国境を越えて広がり、個人も企業も各国政府も、これらのDPFに依存せざるを得ない状況が進行するなか、「デジタル主権」という新たな問題意識が重要性を増しつつある。そして、この「デジタル主権」の一部をなすのが、日々増殖する、ネットワーク上を行き交う膨大な量のデータをどこに保管するのか、という問題である。これらのデータは多数の強力なサーバーに収められるが、それらサーバーを格納するデータセンターの設置・運営には、多くの資金と電力、熟練技術者の確保が必要である。また、データが戦略的性格を持つものであればあるほど、物理面、規制面、対サイバー犯罪などに関して安全と判断される場所に保管することが求められる。あるいは、政治や軍事、経済競争の観点からは、自国データはあくまで国内に保管すべきという決定が採用される場合もある。

近年、デジタルの普及が目覚ましいアフリカ大陸においても事情は同様だが、同時に、資金、電力、熟練技術者、さらに各種の安全性といった要件を見れば、アフリカへのデータセンター設置がいかに難しい課題であるかはすぐにわかる。

フランス貿易投資庁(Business France)によれば、コロナ禍の2020年末時点で、世界のデータセンターの40%は米国、30%は欧州、10%はアジアに設置されており、アフリカに設置されたデータセンターは約80と、世界総数の1.3%止まりだった。また、このうち40が、アフリカのデータセンター先進地域である南アフリカ共和国に集中し、残りの40が北、西、東アフリカに分散、中部アフリカは皆無だった。2021年初頭にアフリカデータセンター協会(African Data Centres Association:ADCA)が発表した数値によると、南アフリカ共和国以外のアフリカ全域が同国並みの水準を確保するには、総容量1,000メガワット(MW)、数にして700のデータセンターの設置が必要となるという。

とはいえ、急速にデジタル化が進むアフリカでもデータセンター設置の伸びは著しく、市場調査企業Mordor Intelligenceの最新データによると、アフリカのデータセンター設置容量は2024年の690MWから2029年には1,230MWへ、つまり年平均12.34%で成長する見通しだ。また、データセンター事業の市場規模も7億4000万ドルから17億9000万ドルへ、2倍超に拡大するという。

近年の国別の具体例を見てみよう。コロナ禍が一段落した2022年8月、米国国際開発金融公社(DFC)は南アフリカ共和国のデータセンター事業者大手Africa Data Centresに対して8,300万ドルの融資を実施した。これは、アフリカのデータインフラ強化を目的とする総額3億ドルの融資枠の第1回拠出分だが、この融資枠3億ドルは、DFCによる支援の適格国であれば南アフリカ共和国以外のプロジェクトにも利用できることになっている。Arica Data Centresは2023年10月に早速、西アフリカのガーナへ30MW規模の大規模データセンターを設置する計画を発表し、これにDFCの融資枠を利用することを確認した。

世界有数のデータセンター事業者である日本電信電話(NTT)もアフリカにおける成長戦略の要として、特に南アフリカ共和国に注目してきた。2010年に同国の情報通信技術(ICT)大手Dimension Data(2024年4月からNTTデータ)を買収。2020年の南アフリカ共和国投資会議では、プレトリア近くに設置したデータセンターの拡張に8億7500万ランド(約4,750万ドル)の投資を約束した後、2022年10月にはヨハネスブルグにも大規模データセンターを新たに開設した。6MWで始動し、将来的に12MWへ拡張するという。ただし、アフリカ全域11カ所に開設したデータセンター(最大10MW)のうち、低採算国からは撤退するとの報道も出ている。

一方、消費電力の再生可能エネルギー化とリンクさせた新しいデータセンター展開のプロジェクトも増えている。フランス通信大手のオレンジは、中東・アフリカ18カ国のグループ企業が提供するサービスの共通インフラとして、2016年にコートジボワールにデータセンターを設置した。そして2022年10月、このデータセンターを専用の太陽光発電所に接続し、日中の消費電力の50%を恒常的に太陽光発電所からの電力で賄う体制を整えた。電力供給量は年間527メガワット時(MWh)。コートジボワールでは、政府が2030年をめどに電力ミックスの42%を再生可能エネルギーとする目標を掲げており(南アフリカ共和国政府の目標も同じ)、オレンジは、今回のソーラー電力利用が政府の目標とも合致したイニシアティブであることを強調している。

太陽光エネルギーの利用に関しては、南アフリカ共和国でもいくつかのプロジェクトがスタートしている。Africa Data Centresは2024年4月、フリーステート州で太陽光発電所建設に着工した。これは、同社が独立発電事業者DPA SA(南アフリカ共和国DPAとフランス電力(EDF)の合弁会社)との間で結んだ期間20年の電力購入契約(PPA)に基づくもので、ソーラーファームで発電された電力は、第1期にはケープタウンのデータセンターへ、第2期にはヨハネスブルグのデータセンターへも供給される。Africa Data Centresは、脱炭素化へ向けた再生可能エネルギー利用とエネルギー効率化の取り組みを進め、すでにISO50001(エネルギーマネジメントシステム)認証を取得している。

南アフリカ共和国の別のデータセンター事業大手であるTeracoも2024年2月、フリーステート州に120MWの太陽光発電所を建設することを発表した。このプロジェクトでは太陽光発電所に加えて80MW規模の風力発電所を建設し、ハイブリッドの供給体制を整備する。2025年9月に始動して年間338ギガワット時(GWh)の電力供給を目指すという。

南アフリカ共和国では深刻な電力不足が続いており、2023年には計画停電が行われた日数が合計332日に達した。Africa Data CentresやTeracoは、事業の脱炭素化という課題と同時に、国内の慢性的な電力不足という喫緊の問題への対応として、再生可能エネルギーの活用に乗り出している。Teracoは、2030年をめどに自社の消費電力を100%再生可能エネルギーとする目標を掲げている。

他方、大地溝帯が通過する東アフリカでは、地熱資源を活用した大規模データセンタープロジェクトが計画されている。ケニアでは2024年3月6日、地熱発電を利用した超大型データセンター設置に関する合意が、ルト大統領立ち会いの下で調印された。プロジェクトに参加するのはIBM、マイクロソフト、インテル、オラクルらが参加するコンソーシアムEcoCloud(ケニア籍)と、アラブ首長国連邦(UAE)のG42だ。データセンターの設置場所は、ケニア発電公社が運営するアフリカ最大規模の地熱発電所があるオルカリアで、まず消費電力100MWのセンターを建設し、その後1GWにまで拡張するという。EcoCloudとG24は、クラウドや人工知能(AI)を含む包括的エコシステムの構築まで提携を広げていく予定で、データセンターの設置はその基盤作りといえる。

なお、5月22日には米国マイクロソフトとG42が、ケニアのデジタル部門向けに10億ドルの投資プログラムを発表した。プログラムの柱は、マイクロソフトのクラウド・プラットフォーム「Microsoft Azure」を東アフリカ向けに管理・運用するためのエコロジカルなデータセンターの建設だが、その他にスワヒリ語と英語によるAIモデルの開発、地域研究開発ラボの設置とAI分野の人材育成、陸上・海底光ファイバー網の敷設、東アフリカにおける確実かつ安全なクラウドサービス促進に向けたケニア政府との協力が予定されているという。

北アフリカでも、米国のスタートアップが主導する風力発電利用の大型データセンター設置プロジェクトが計画されている。設置予定地はモロッコ初のウィンドファームがあるKoudia Al Baidaに近い地中海沿岸の都市テトゥアンで、米国テキサス州を本拠地として2023年末に発足したばかりのAI分野スタートアップIozeraが2024年5月、モロッコ政府との間で了解覚書に調印した。5億ドルを投じて、テトゥアンの5万平方メートルの用地に容量386MWの大規模データセンターを設置するという。2026年半ばに稼働し、AI分野の世界規模のハブ構築を目指す。電力に関しては、Koudia Al Baidaの風力発電の他に、モロッコ中部ワルザザートにある集光型太陽熱発電所Noorからの電力供給も見込んでいる。

モロッコは2021年2月、モハメド6世工科大学にTier3/Tier4レベルの先端データセンターを設置すると同時に、英国ケンブリッジ大学の協力の下、科学研究とイノベーションを目的とする強力なスーパーコンピューターを導入した。現在のところ、モロッコのデータセンターの市場規模はそれほど大きくはなく、需要の多くは多国籍企業の子会社に集中している。しかし、今後、2030年のFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップなどの大規模イベント、通信、自動車、航空、再生可能エネルギー、グリーン水素などの分野における外国直接投資が加速すれば、データセンター需要も増大することが予測される。

また、モロッコ政府は2022年にサイバー犯罪関連の新法を発布し、センシティブな情報については国外でのデータ保管を禁止した。堅調な経済、安定した電力供給、中部アフリカのガボンからポルトガルのリスボンまでの大西洋沿岸を結ぶ海底光ファイバー網の展開、さらに、フランスをはじめとする国外で高等教育を受けた人材が豊富なこともモロッコの強みだ。カサブランカに研究開発(R&D)拠点を設置してクラウドやAI関連の開発を進めてきた米国オラクルは、2024年5月9日、IT分野の新規人材1,000人の雇用に関し、モロッコ政府との間で新たな合意に調印した。

(初出:MUFG BizBuddy 2024年6月)