欧州議会選挙が6週間後に迫った。フランスでは極右野党RNを率いるバルデラ候補が30%前後の支持率を得て独走態勢に入っており、与党連合は2位につけているものの、支持率は低下傾向にある。親欧州中道左派の社会党が、誠実なリベラル知識人というグリュックスマン候補のイメージが与える安心感も手伝ってか、支持率を伸ばしているのは意外だが、ほかの左派・環境派政党は低迷しており、左派・環境派に対する支持が全体として回復しているわけではなさそうだ。欧州連合(EU)の多くの国で、欧州統合は概して不人気であり、EUの欠点をとりあげて批判的なキャンペーンを展開することは知的にも感情的にも有権者にアピールしやすい。欧州懐疑主義的な右派・極右の支持率が高まっているのはフランスに限ったことではないが、欧州議会選挙のたびに、反欧州の立場を掲げて活発に選挙戦を展開する政党を見ると不思議な気もする。獅子身中の虫として欧州を中枢から突き崩そうということだろうが、RNも最大野党に成長したせいか、最近は「脱ユーロ圏」や「脱EU」の主張を引っ込めている。最初から欧州統合に距離を置いてきた英国ならともかく、ドイツとともに欧州統合の中軸であるフランスがユーロ圏やEUを離脱するというシナリオはさすがに現実味を欠いており、責任ある政党が安易に主張できることではない。しかし、欧州委員会がやたらとポリコレな規制や規則を設け、達成できそうもない高い目標を次々と掲げる中で、「欧州は小うるさいだけで良いことはなにもない」と感じる市民も多いに違いない。EUが環境規制などで厳しい枠組みを設けることは立派だと思うし、世界に先駆けてそうした倫理的な手本を示すことは欧州がまだ文明の先端にいることの証だろう。しかし、問題は欧州市民が自分たちをもはや優れた文明の担い手とは考えられず、誇りを抱けなくなってしまっていることだろう。EUの経済・政治力が米中と比べて地盤沈下していることは誰の目にも明らかであり、これは右派や極右が主張するようなキリスト教的ルーツの擁護や伝統の復活といった小手先の手段で食い止められるような簡単な事態ではなさそうだ。頑張れ欧州、と励ましておく。