ウクライナ支援に向けて欧州のいっそうの結束が望まれる中で、ドイツのシュルツ首相とフランスのマクロン大統領の反目が関係者の懸念を招いている。両首脳が互いに相手を挑発するような発言を繰り返し、溝は強まるばかりとの印象がある。両者の性格の対比は衆目の認めるところだが、性格が違うからこそ気が合うという関係は世の中にいくらでもあるから、これは決定的な要因とは言えない。数日前に仏ルモンド紙に寄稿したドイツの専門家は、この確執は、首脳同士の個人的な反感だけでなく、防衛に関する独仏のビジョンの根本的な食い違いに由来していると論じていた。フランスが米国への依存を減らして欧州独自の防衛体制の確立を目指しているのに対して、ドイツは欧州の防衛が米国との強い協力なしには不可能と考え、NATOを中軸とする防衛体制を優先する立場をとっていることが、両国間の相互理解を妨げる最大の要因だという。トランプ前大統領が11月の選挙で米大統領に返り咲くかどうかはともかく、米国が内向きの傾向を強めていることや、米国の世界戦略の重心が中国との対決にシフトして欧州が以前よりも軽視されつつあることは明らかで、欧州が自力で防衛する必要があるというフランスの考えは基本的に正しいと思われるが、いかんせん、欧州連合(EU)の核兵器保有国は今やフランスのみであるうえ、アフリカの旧植民地におけるテロとの戦いで十分な成果をあげられずに追い出され、ロシアの民兵組織にとってかわられつつあるフランス軍の実力には大きな疑問符もつく。ドイツ軍も歴史的経緯により様々な制約を課されており、フットワークの軽さはない。ドイツから見れば、頼りにならないフランス(普仏戦争や第二次世界大戦での不甲斐ない戦いぶりの歴史的記憶も影響しているかもしれない)と組むのは心細く、NATOを重視し、米国に頼るのは自明の現実的選択ということになる。ただし将来も米国が本気で欧州を守ってくれるかどうかは未知数で、対米依存が行き過ぎればほぞをかむ恐れもある。今から80年前までは独仏が繰り返し戦争していたことを思えば(ドイツが防衛を米国に頼ることを当時の誰が想像できただろう)、両国の防衛戦略が食い違うぐらいは大した問題ではないとも言える。粘り強い折衝で溝を埋めて、効果的なウクライナ支援を進めてほしい。