土偶を読むを読む

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

今夏の休み中に読んだ本のうちでは『土偶を読むを読む』が面白かった。これは2021年に出版されて注目を浴びた竹倉史人著『土偶を読む』(晶文社)の主張を、考古学の側から厳密に検証した著作で、学術的であるとはどういうことか、について深く考えさせてくれる好著だ。『土偶を読む』は、考古学が130年間にわたり解明できないで来た土偶の正体を、考古学には門外漢の著者が自分の専門であるイコノロジー研究の方法によって一気に突き止めたと大胆に主張する本で、考古学会からは全く受け入れられなかったが、著者の竹倉氏はそれを考古学会の権威主義や閉鎖性のせいである と批判し、専門知のありかたをめぐる論議も引き起こしていた。学術本で実績のある晶文社から出版され、複数の識者から好評を得て、第43回サントリー学芸賞も受賞しただけに、一般読者の目には画期的な理論が展開されたかに見えたが、あまりの暴論に耐えかねて、ついに反撃に転じた考古学の陣営が編んだ『土偶を読むを読む』は『土偶を読む』の論理展開の杜撰さを完膚なきまでに暴き出しており、『土偶を読む』が単なるトンデモ本でしかないことを徹底的に明らかにしている。しかし、軽蔑的な表現や上から目線といった安易な方向に流れることなく、素人の読者にもわかるように懇切丁寧に土偶研究の歴史を解説しつつ、『土偶を読む』の論理や証明のどこが完全に破綻しているかを徹底的に分析するとともに、「専門知批判」の言説がなぜこれほど多くの識者から支持されたのかについても興味深い考察を提示している。サントリー学芸賞の審査では、関西の某有名大学の某著名教授が『土偶を読む』の尻馬にのって考古学への批判を展開したが、こんなトンデモ本を受賞させてしまったことで、賞の権威や信頼性は今や完全に損なわれてしまったといえるだろう。過去の受賞者や今後の受賞者にとってはまことに残念なことである。ノーベル賞のパロディーにイグノーベル賞というのがあるが、サントリー学芸賞も今後は人々を笑わせ考えさせた優れたトンデモ本に授与される イグ学術賞として存続する道を探るのが得策ではないか、と示唆しておこう。