フランスは7月14日の革命記念日にインドのモディ首相を特別ゲストに迎え、インドとの協力関係の強化に努めた。台湾問題を含めて攻撃的な姿勢を強める中国に対抗できるアジアの大国として、インドの地政学的地位が強まっている中で、フランスに限らず欧米はインドとの接近を試みている。モディ政権は、伝統的な非同盟の姿勢を超えて、独自の全方位的外交政策を積極的に展開しており、ロシアとも友好関係を維持するなど、欧米にとって与し易い相手ではないが、人口規模でついに中国を抜いて世界最大となったし、IT分野などを中心に優秀な人材を輩出している新興国であり、今後の世界で避けて通れない国だ。中露も多民族・ 多文化だが、インドはそれ以上に極端な多民族・多文化・多言語・多宗教の国であり、それを「多様性の豊かさ」と評価する向きもあるが、国としての統一性を維持するのが難しいことは明らかで、モディ政権のような強権的な姿勢もある程度はやむを得ないのかもしれない。このような複雑性と多様性を備えた大国はほかにあまり例がないので、一神教的な伝統に由来する「普遍的価値観」を基準にして付き合うことは恐らく不可能だろう。その点では多神教の伝統がある「曖昧な日本」のほうがインドとスムーズな関係を持てるかもしれない。安倍元首相がモディ首相との強い友好関係を構築したことの意味合いも、今後に改めて評価されるのではないだろうか。筆者は特定の政権や政党を支持したことはなく、選挙で投票したこともないし、 安倍元首相には問題も多々あったと思うが、対インド外交では日本には珍しい先見の明があったと考える。