欧州とトルコの関係

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

トルコでもうじき大統領選挙と議会選挙が実施される。エルドアン大統領にかわって親欧米派の新たな大統領が誕生してくれれば北大西洋条約機構(NATO)による対ロシア対策が円滑になり、クルド人問題などにも解決の糸口がみられ始めることが期待できるが、いまやプーチン露大統領や習中国国家主席と並んで世界秩序を左右する実力者であるエルドアン大統領がそれほど簡単に政権を手放すかどうかはわからない。また、かりに政権交代が生じた場合、欧州連合(EU)がトルコの将来的な加盟を真剣に検討し始めるべきかどうかも再考すべき課題となるだろうが、いつまたイスラム系政党が政権を奪還するかわからないのでは、うかつに加盟させるわけにはいかないだろう。EUはキリスト教同盟というわけではないが、トルコが欧州とは異質の文化・文明・伝統・歴史・習俗・精神性を持つ国であることは否めない。EU加盟国の一部はかつてオスマン帝国の領土だったが、だからといって、トルコ化したりイスラム化したわけではない。キリスト教の伝統という根強い基盤があったからだろう。トルコの側でも、建国以来の世俗主義の原則に立ち返ったとしても、欧米的な国家に変身することは決してないだろう。欧州とイスラム圏はやはり水と油であり、トルコがEUにうまく溶け込むことは期待できない。トルコは欧州の東側の防衛の要であるだけに、絶対に無視はできないが、完全に信用することもできない難しい隣人として、今後も欧州を悩ませ続けるのだろう。しかし、これはトルコが特殊な国であるせいではない。特殊なのはむしろ欧米の側であり、欧米が推奨するような政治体制こそが欧州の特殊な歴史の産物であり、世界では例外であることを明確に認識しておく必要がある。欧米型民主主義の普遍性というフィクションは美しい夢ではあるかも知れないが、実際には民主主義を望む国は世界では少数派であり、トルコから東側のユーラシアに一つでも本当の民主国家があるかどうかは大いに疑わしい。トルコはそのことを欧州にリマインドし続けてくれる貴重な隣人でもある。