2022年6月28日 編集後記

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

恒例の全英オープンテニス(ウィンブルドン選手権)が開幕したが、今年は主催者が英国政府の方針に沿う形で、ロシアとベラルーシのプレイヤーを除外し、物議を醸している。本来なら出場可能だった世界ランキング上位の男子の4人、女子の7人が欠場を強いられた。男子では特に、世界1位のダニール・メドベージェフ選手が出場権を奪われるという異例の事態となった。プロテニス選手の権利を擁護する団体であるATP(男子)とWTA(女子)はこれを不公平な扱いと判断し、抗議の意味を込めて、今年の全英の勝者らに一切ポイントを付与しない方針を決定した。昨年の全英でポイントを稼いだ選手は、今年は自動的にそれを全て失って、順位を下げることになるため、これはこれで不公平な結果を招きかねない。もちろん、他の大会と異なり、全英に優勝すればその栄誉も、キャリアアップも、収入増も計り知れないほど大きいから、ポイントがもらえないぐらいは勝者にとってたいしたマイナスにはならないが、ともかく例外的な状況での開催となった。
メドベージェフをはじめとして、ロシア人プレイヤーは、平和を望む、という型通りの発言を行っているが、表立ってウクライナ侵攻を批判してはいないし、また、立場上、それはできないだろう。内心でどう思っているのかは分からないが、ウクライナ侵攻を明確に支持してもいないようだ。筆者は個人的にはメドベージェフの個性的なプレイや発言が好きだし、彼が出場できないことを残念に思うが、ウクライナの状況を鑑みるに、公平であれ不公平であれ、あらゆる手段を動員してロシアに圧力をかけることにも賛成せざるを得ない。
停戦に向けてプーチン大統領と妥協する時機を伺う独仏などと対照的に、ロシアへの敵対的姿勢を明確に打ち出している英国の政治的選択は、心情的には好ましいが、戦略的に正しいのかどうかはまた別問題で、最終的には歴史の判断を待つしかない。もっとも、判断が下る頃には筆者はもう生きてはいないかも知れない。テニスの試合をTVで眺めつつ、これほどもやもやした気持ちになるのでは、スポーツ観戦の意味合いも薄れてしまいそうだ。