仏キャピタル誌は6月23日付けで、2020年7月に就任したデメオCEOとのインタビューを掲載した。概要は以下の通り。
問:過去2年間に自動車部門は次々と危機に見舞われてきた。
答:グローバル化した世界では、小さな不具合がシステム全体の停止を招く。過去30年間はうまく機能してきたが、現在は多数の危機が発生しており、ロシア問題を別にしても、上海のロックダウンで世界のロジスティクスが危機に陥っている。地政学的要因も思いがけない結果をもたらす。例えば、多くのウクライナ人がロジスティクスと商品輸送に関わっていた。
問:半導体不足の影響は?
答:新型コロナウイルス危機は、自動車など一部産業の需要を大きく低下させ、逆に付加価値の高い部品を用いるエレクトロニクスなどの部門の需要を急増させた。アジアの半導体メーカーはこれに合わせて生産能力を増強したが、これには大きな投資が伴う。半導体メーカーとしては、携帯電話のように利益の大きい部門向けの生産を優先する傾向がある。自動車部門が用いる半導体はより単純なもので、スマホ用の半導体とは異なる。そのため自動車向けの生産は優先順位が低い。
問:改善の見通しは?
答:ルノーでは、今年の生産逸失を30万台と見込んでいる。下半期には状況は改善するだろうが、混乱は続く。サプライヤーと協議しているが、解決は難しい。ルノー車の受注が過去15年間で最高の状態であるだけに、皮肉だ。
問:ルノー車の販売実績単価は過去最高となっている。
答:昨年は平均で6%近く、今年上半期にも5-6%上昇した。これは部分的には製品の高級化を目指す戦略と販売方針の変化によるが、生産・販売効率改善努力の成果でもある。この「解毒」的アプローチは時間がかかるが、昨年末まででこの段階は終わった。現在は、この勢いを失わずに、欧州での数十年来の異例の高インフレも考慮しつつ、品質と価格の関係を上手に管理していくことが課題だ。
問:価格設定の参考基準は?
答:PSAが2014年から2019年にかけて行ったことを当初から参考にした。私の目標の一つは、ルノーブランドの市場ポジショニングをプジョーに近づけることだったが、これは予想以上に早く実現した。以前のルノーは市場シェアと販売数の増加を追求していたが、これは会社にとり大きなマイナスだった。以前は利益をあげていなかったが、いまは利益を出している。
問:EVの受注は意外な驚きか?
答:「メガーヌE-Tech」については、フランスで発売されたばかりで、外国ではまだ発売されていないので、判断は時期尚早だ。これまでに1万4000台の受注があり、スタートとしては悪くない。メディアの反応も良い。私見では、EV界のリーダーになれる製品だ。唯一の問題は、EVの価格が内燃エンジン車より1万ユーロ高いことだ。補助金はあるが、それを継続して、EVの売れ行きを支え、技術コストを相殺できるだけの販売数を確保する必要がある。
問:マクロン大統領は、購入オプション付きのEVレンタルに補助金を支給することを計画しているが、どう思うか?
答:EVは販売価格が高いが、使用コストは内燃エンジン車の3分の2ですむ。たくさん乗るほど得になる。販売価格だけ見ずに、1km当たりのコストを比較するとEVのほうが有利だ。ルノーでも、EVを販売するより、リースするビジネスモデルを試している。大統領の計画はEVのアクセス可能性を支援するもので、妥当だ。
問:現代・起亜自動車は最近、超高速充電が可能なBEVを発表した。ルノーも類似の技術を用いるか?
答:ルノーは航続距離の長いEVを提供することを目指している。800Vの超高速充電システムも採用する。しかし、現代・起亜自動車の製品は高価で、「メガーヌE-Tech」よりセグメントも上だ。「メガーヌE-Tech」は、ヒューマンマシンインターフェースやインフォテイメントなど複数の分野で技術の最先端を行っており、ルノーはその点で一部の高級車メーカーよりも優秀だ。
問:バッテリーに関する目標はどのメーカーでも同じか?
答:2つの立場がある。1つは、1000kmを走行するために大型のバッテリーを搭載するというものだ。もう1つは、できるだけ少ないバッテリーを使用して同じレベルのサービスと使い勝手を提供するというもので、私はこの考え方だ。
バッテリーのライフサイクル全体のカーボンフットプリントを考慮すると、年に1回長距離を走破するために、大型バッテリーを搭載するのは環境配慮の面で適切ではない。
問:ルノーはEVのパイオニアだったのに、その後は開発が停滞した。
答:ルノーはEVの開発に再び注力しており、他に例のないノウハウを持っている。販売の11%近くをEVが占め、テスラ以外のメーカーをしのいでいる。私は欧州でルノーが完全電動化ブランドとなるための条件を作り出す方針だ。
問:内燃エンジン車はどうなるのか?
答:内燃エンジン車はゼロエミッションにはならないが、技術革新による改善の余地は大きい。SUV「オーストラル」のハイブリッド車バージョンが好例だ。
問:市場の今後の推移は?
答:現行の規制システムでは、大型の高級車のほうが、新たな環境基準・安全基準を遵守しやすい。そのため、値段が手頃な小型車を生産することがもはやできなくなった。自動車産業はクルマの民主化を目指してきたが、現行規制はモビリティ格差を生むだろう。大多数のメーカーがAセグメントを放棄しつつある。しかし、ルノーは適応を試みるし、そもそも都市部では大型車よりも、小型EVを使用するのが妥当だ。
問:ルノーは小型EVを開発するのか?
答:すでに開始している。「ダチア・スプリング」が一例だ。
問:EV事業を子会社化することを選択した理由は?
答:それは現状ではまだ検討の段階だ。EVに100%専念するスタッフのグループと、内燃エンジンの開発・生産に専念するグループを形成して、それぞれを専門の事業体とすることを検討している。ビジネス面での利点は明白だ。
問:自動車部門におけるソフトウェアの重要性が増しているが、ルノーの対応は?
答:自動車用ソフトウェアには2つの次元がある。1つは自動運転車、もう1つはコネクテッドカーだ。個人的には完全な自動運転車には懐疑的で、夢物語だと思う。コネクテッドカーに関しては将来性を確信しており、洗練された半導体を用いた新世代のモデルを2025年にも実現できると考えている。最先端のICTを搭載したクルマは、中古車として売却する際の価格も高いという利点もある。
問:ルノーのフランスにおける地位は?
答:就任以来、ルノーをフランスのエコシステムに結びつけることに努力している。フランス国内の工場や事業について下した全ての決定がそのような方針に基づいている。フランスは低価格車の生産地ではなく、イノベーションと付加価値の洗練された国であり、それにふさわしい事業体制を整備することに配慮している。
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