フランスの下院選挙では、マクロン大統領を支持する連立与党が議会で過半数を確保できず、第5共和制では異例の事態が発生した。大統領派(中道)、左派(極左から環境派まで)、極右の3極化が鮮明になり、議会の議席数がフランスの世論をより忠実に反映しているという意味では民主的な結果だが、3大政党のせめぎあいで不安定な政局が続いた第4共和制に似た状況だとの指摘も聞かれる。三すくみの状態で、大統領も議会も動きがとれない状態が5年間続くようなら、フランスの衰退は不可避だが、三つ巴の闘いの中で、フランスに欠けているといわれてきた対話と妥協による民主主義の精神が醸成されるなら、災い転じて福となす、ということになるのかも知れない。マクロン大統領の妙に消極的な態度が何に由来しているのか気になるところだが、総選挙の結果が誤算だったことは間違いないだろう。識者の中には、大統領は今後1年ぐらい、議会の紛糾を放置しておいて、「ほれみたことか」と自分に強固な多数派を与えてくれなかった有権者に反省を促し、議会を解散して総選挙のやり直しに賭けるのではないか、とみる向きもある。しかし、新たな総選挙でも過半数を確保できなければ、大統領は完全に死に体となるだけに、これは危険な賭けだ。大統領がフランスの政治を抜本的に改革したいなら、むしろ北欧やベネルクスのやり方を参考に、与野党間での粘り強い協議を通じたコンセンサス形成の方法を確立すべきだろうが、そのためには、これまでのように極右を「非共和的・非民主的」と形容して排除することはできない。筆者は毎回の選挙で極右候補が圧勝するような田舎に住んでいるのだが、ひしひしと感じるのは、極右しか自分たちの苦境に配慮してくれないと真摯に感じている庶民が圧倒的に多いということだ。インクルージョンということを言うなら、極右を包含できないような民主主義は本物の民主主義ではない、ということを認識すべきときが来ているのではないか。