フランスの総選挙で、マクロン大統領を支持する連立与党が議会で過半数を確保できない可能性が生じている。大統領選挙の第1回投票の結果を見れば、大統領への支持率は30%に満たず、極右(ルペン候補)と左派ポピュリズム(メランション候補)への支持率が20%超だったので、この3極化が総選挙の第1回投票でも再確認されたことは驚くにあたらない。総選挙は小選挙区制で争われ、本来なら与党陣営が圧倒的多数の議席を獲得して安定的な政権基盤を構築できるはずだが、左派ポピュリズムを中核とする左派陣営の躍進で、マクロン大統領は向こう5年間、レームダックに近い状態に陥るリスクもないではない。
総選挙を「大統領選挙の第3回目投票」と見据えて、左派を糾合して選挙に臨んだメランション氏の力技に与党が有効な対抗策を講じられなかったことが一因で、同氏の政治巧者ぶりが再評価された形だが、現政権が解決できないできた黄色ベスト運動以来の庶民層の不満が投票に反映されたとも考えられる。
そもそも第5共和制は大統領が強力な権限を行使できる政治システムとして設計されていたのだが、ミッテラン時代とシラク時代には保革共存という異常事態が発生して大統領は自陣営と対立する首相との妥協的な政策運営を強いられた。ところが国民はこの共存というねじれた体制を比較的好意的に受け止めた。たしかに民主的なバランスを維持するという観点からは悪いことではなかったかも知れない。今後のフランスの政治情勢は右派・中道・左派の3勢力がほぼ同じ程度の力を保持してせめぎ合うという均衡の図式が続きそうだから、今回の総選挙の最終的な結果がどのようなものであれ(大統領与党が辛うじて過半数を確保した場合にも)、第5共和制自体がもはや構造的疲労で限界に達したことを認めて、第6共和制への道筋を準備することが与野党双方の課題になるかも知れない。
ちなみに、オランド社会党政権では、議会で与党・社会党が圧倒的多数を占めていたが、オランド大統領は5年間をほぼ無策で過ごし、社会党はその後あっという間に衰退した。緊張感を欠いた強い与党はろくなものではないから、今回の選挙がフランスの政治にとりむしろ良い刺激剤となることを期待したい。