英米の中央銀行が利上げ局面に突入した中で、欧州中央銀行(ECB)が微妙な選択を強いられつつある。インフレ率が高まっている中で、政策金利を引き上げるというのは中銀の定石とはいえ、現在のインフレは新型コロナウイルス危機によるサプライチェーンの混乱や、ウクライナ危機によるエネルギー問題などが原因であって、好景気によるインフレではない。利上げは、すでに低調な景気をいっそう圧迫して、回復の腰を折る恐れがある。またECBの表向きの任務はインフレの調整だが、実際には、ユーロ圏諸国の公的債務にも配慮することを求められている。イタリアやフランスの公的債務残高が非常に高い水準に達している中で、利上げを決行すれば、これらの国の財政が破綻し、新たな金融危機を招きかねない。もちろん、債務水準の低いドイツやオランダからは、利上げに向けた強い圧力がかかるだろうが、それぞれ事情が異なる19ヶ国で構成されるユーロ圏の金融政策の舵取りは、例えば(不謹慎な例えかも知れないが)妻と愛人の両方を満足させなければならない男が感じるようなジレンマの連続に違いない。ラガルド総裁に同情したくなるが、総裁にとっては腕の見せ所でもある。