ダチアのCEOにインタビュー

投稿日: カテゴリー: 欧州自動車・モビリティ情報

4月22日付けの仏レゼコー紙は、ルノー傘下ブランド「ダチア」のドゥニ・ルヴォCEOのインタビューを掲載した。
CEOの談話の概要は以下の通り。

「ロガン」の投入から15年を経て、ダチアはその歴史の第2段階に入ろうとしている。シュバイツァー会長時代のルノーの方針は、5000ドル程度の自動車を提供して、一種の軍拡競争を止めることにあった。全ての消費者が、価格が高くなってもいいから、いっそうの馬力、いっそうの電子設備、いっそうの快適性を求めているというわけではないのだから、自動車の性能と装備を一定水準でとどめておこうというアイデアだ。中身は変わってきたが、基本方針は今も同じで、それが成功している。
この方針とは、顧客の身になって、何が重要かを見極めることに専念し、顧客の代わりに選択を行うことだ。ローコストという呼び名は拒否したい。例えば新型「ジョガー」にはリアカメラ、駐車支援、坂道発進支援など、不可欠と思われる装備は全て揃っている。そして、どのような装備が不可欠かは時代と共に変化する。数年前まで重要でなかった空調システムは今では不可欠だ。しかし、多様なオプションを提供する他のメーカーと異なり、ダチアでは、ほぼ標準的な装備のレベルをメーカーの側で決めている。このアプローチのおかげで、製造も販売もより効果的になっている。
例えば、小型EV「スプリング」の場合だと、2つのレベルの装備と、5つの色を提供している。顧客にとっては、スマホを選ぶよりも「スプリング」のバージョンを選ぶほうが簡単だ。また、例えば電動タイプの座席調節装置のような必須ではない装備を除外することで、車重を軽くできる。車重が軽いと、モーターも小型ですみ、電力消費も小さく、コスト競争力も高まるという具合に好循環が導かれる。

ルノーはダチアの臓器バンクのようなもので、ダチアはルノーなしには存続できない。ダチアは技術革新には取り組んでおらず、何年も前からルノーがすでに大規模に使用してきた技術を再利用している。ただし、ダチアのエンジニアは、ルノー車を下敷きにして、そこから必須ではない部品だけを取り除いてダチア車を設計しているわけではない。ダチアはルノーと共通のプラットフォームと部品を用いて、ゼロからモデルを設計している。
デザイン・ツー・コストと呼ばれるこうしたコスト管理では、製品開発を白紙から開始する必要があり、多数のエンジニアを動員している。ダチアはまた製造設備のキャリブレーションが得意で、これは、毎日夕方には売り切れるので、売れ残りを抱えずにすむパン屋のようなものだ。

ダチアが新段階に入ろうとしているというのは、自動車産業を取り巻く全体的状況が変わったからだ。コスト削減の当初の狙いは、用いる原材料を減らし、安くて、軽くて、燃料消費が少ないクルマを作ることにあった。これは今やますます適切性を増している。自動車産業に対する拘束が強まる中で、ダチアの競争力はいっそう強まった。2年前から、原材料価格が高騰し、CO2排出期制も厳しくなっている中で、顧客は合理的な購入を優先している。

ロシアではダチアは自動車を販売も生産もしていないので、現在の同国の状況は、ダチアの戦略には影響がない。

ダチアの成功がルノー・ブランドとの共食いにつながる恐れはない。ルノーとダチアはむしろ補完的だ。ダチア車の購入者の6割は、それまでルノー・グループの製品を購入したことがなかった顧客だ。ダチアはルノー・グループにとって呼び水になっている。買い替えの場合も、多くがダチアかルノーの製品を選んでいる。ここでもダチアは好循環を招いているといえる。

欧州連合(EU)の規制が電動化を強いるので、ダチア車も必然的に電動化するが、顧客の要望やニーズに適したEVを賢く設計する必要がある。全ての顧客が、500キロメートルの航続距離を誇り、30分で急速充電できる大型EVを欲しがるわけではない。日常的な短距離の移動に用いられ、毎日30キロメートルぐらいしか走らない形で利用されている自動車が欧州には1500万台もある。
ダチアはルノーとの時間差を利用する方針だ。2023年に「ジョガー」にハイブリッド車を導入する際には、ルノーが開発した「E-Tech」を採用するが、その時点で、「E-Tech」は使用開始から4年を経ており、部分的に減価償却されている。なお、ダチア車は軽いので、競合メーカーと比べて、より長い期間、EUの規制に適合し続けることが可能であり、これはマクロ経済的にも利点が大きい。

ダチアは黒字だが、ダチア固有の収益性がどういうものかは決めるのが難しい。ダチアとルノーの間で相互的な協力関係があり、グループ内で既存の手段を共に活用しあっており、投資負担を軽減しているからだ。ダチアは値引きをせず、企業向けの販売で販売台数の増加を追求することもない。シンプルなラインナップで、値引きをしないことで、販売店も顧客も嫌な思いをせずにすみ、顧客離れもない。

ダチアには2つの面がある。歴史的なダチアは、限られた予算でなんとしても新車を購入したい客層を相手にしている。その一方で、ダチアの販売の4分の3は、資金力があり、装備の充実したモデルを賢く購入したい客層が相手だ。つまり、市場で最安の製品を購入したい客層と、競合他社と比べてより安い製品を購入したい客層の双方を相手にしており、後者の客層が増えている。

ダチアは15年前にはルーマニアで年間5万-10万台を販売していたが、今では年間60万台を販売しており、大きく成長した。フランスでの個人向け販売ではトップのブランドとなり、欧州でも3位に付けている。
現在のダチアは主にBセグメントの製品を提供しているが、「ジョガー」の投入でCセグメントにも進出している。Bセグメントで培ったノウハウを、より市場規模が大きいCセグメントに移し替えるのが目標だ。

現在、自動車価格はますます高くなっている。数年後には、EUの新たな排ガス規制「EURO7」が導入されるので、重い自動車は排ガス削減技術の費用が嵩み、価格はますます上昇する。しかしドライバーの購買力はそれにつれて向上するわけではないので、ダチアの競争力は強まるだろう。
価格の安さは顧客の関心を惹くとっかかりとなる。しかしそれに加えて、顧客に購入意欲を起こさせるモデルを開発する必要がある。ただし、利点はデザインというのはそれほどコストがかからないことだ。ダチアがアストンマーチンから引き抜いたチーフデザイナーは、大量販売されるモデルのデザインに取り組むことに非常に強い意欲を刺激されている。