「コーエン事件」、大統領選に影響も

投稿日: カテゴリー: 日刊メディアダイジェスト

大統領選の第1回投票を目前に控えて、「コーエン事件」を極右系の候補者らが熱心に取り上げている。31才のジェレミー・コーエン氏(31)がパリ郊外ボビニー市でトラムウェイにひかれて死亡した事件で、政府が意図的に、死亡に先立って発生していた暴行を隠蔽していた疑いがあるなどとする主張を展開している。
事件は2月16日に発生した。警察は当初、事故死の線で捜査を行ったが、家族が目撃者の募集を行い、3月半ばに防犯カメラの動画が持ち寄られた。動画には、コーエン氏が10人程度のグループにより暴行を受ける場面が記録されており、その直後に事故が発生していたことが判明。警察は3月29日の時点で、「集団暴行・致死」の容疑での捜査に切り替えていた。
事件は、コーエン氏の父親が、右翼のゼムール候補に4月3日時点で連絡し、事件を風化させないよう協力してほしいと要請したのが起点となって、政治問題化した。ゼムール氏はさっそく、SNS上で問題の動画を拡散するなどして事件を喧伝し、ユダヤ人を狙った暴力行為であり、司法は動かず、メディアは隠蔽し、移民による犯罪から目をそらそうとしている、などと言明。政府が意図的に事件を隠した疑いがあるなどとする陰謀論を展開した。極右RNのマリーヌ・ルペン候補も同様の政府批判の材料としている。
コーエン氏はユダヤ系で、事故現場にはキッパ(ユダヤ教徒の男性がかぶる帽子)が落ちていたとする証言もある。ただし、検察当局は現時点で、暴行時にユダヤ人であることが明らかであったか否かは判明していないとし、ユダヤ人差別と特定して捜査をする段階にはないと説明している。