2022年3月29日 編集後記

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何百年も生きてきた古い立派な樹木というのは、世界のどこでも深い崇敬の念を抱かせるものらしく、欧州でも、人々に親しまれている高樹齢の木を称える「the European Tree of the Year」と称するコンテストが2011年から毎年行われているそうだ。どの程度の認知度があるイベントか分からないが、筆者は最近までその存在を知らないでいた。今年は16ヶ国が参加し、先ごろポーランドの樹齢400年というナラの木が受賞した。受賞理由は、外敵による攻撃に対するポーランド人の抵抗と、ウクライナ難民に対する温かい受け入れのシンボルだという。ロシアも文豪イワン・ツルゲーネフが手ずから植えたという由緒のあるナラの木を候補に立てたが、ウクライナ侵攻を理由に、コンテストから除外されてしまった。ツルゲーネフは19世紀の作家だから、樹齢ではポーランドのナラにかなわないが、ツルゲーネフといえば、『あいびき』によって、落葉林の美しさを国木田独歩に教え、「自然の発見」を明治期の日本人にもたらした恩人とも言えるだけに参加すらできずに失格したのは残念だし、樹木のコンテストにまで政治が介入することにいささか疑問を覚えないでもない。ちなみに、プーチン大統領は先ごろ、ロシア文化をボイコットする動きが米欧で支配的になっていることをキャンセルカルチャーだと批判した。ロシア文化がキャンセルされているのは誰のせいか考えれば、どの口がそんな白々しいことを言えるのかと呆れてしまうが、そんな矛盾と傲慢さこそがロシア的なのかも知れない。チャイコフスキーやラフマニノフにまでとばっちりが及ぶのはいささか悲しい事態だが、翻って、例えばドストエフスキーなどの場合は、なにやら、ロシアの特殊な精神性を代表している気配もないではない。しかし、だからこそ、今あらためて読み返すべき、という考え方もあるかも知れない。