ロシアがいきなりウクライナ全土を標的とする戦争を開始するとは筆者は想像していなかった。ロシアで何が起きているのかを全く読み取れていなかったわけで、己の不明を恥じざるを得ない。ロシアの行動は大方の意表を突くものだったが、この意外な行動が同国の利益にとってプラスかどうかは疑問だ。ドンバス地方に限定した侵攻ではなかったことで、これまで対ロシアで腰が重かったドイツを含む欧州連合(EU)諸国が一斉に安全保障に本腰を入れ始めた。数日のうちにロシアを取り巻く国際情勢は急変し、同国の孤立が深まった。すでに経済的には小国であり、周辺に悪い影響を及ぼすだけの国だといわれてきたロシアだが、今回の戦争を機に米欧が導入した本格的な制裁により、ロシア経済は壊滅的な打撃を受ける可能性がある。またロシア国内でも若者や知識人を中心に反戦運動が起きており、兵士の犠牲が増すに連れて、遺族を中心に反戦・厭戦の気運もいっそう強まるだろう。軍のクーデタによりプーチン政権が倒壊するというような展開もありえるのではないかと筆者は夢見ているのだが、そうでなくとも、この戦争を通じてロシアの全体主義にほころびがみられるのは不幸中の幸いだ。ロシアの現行体制が二度と立ち直れないほど疲弊するまで強力な制裁を維持してほしいものだ。意外と言えば、ウクライナの抗戦力もそうだ。ロシア軍が攻撃をいっそう強化している現状では、戦争の帰趨は不確かだが、国家としては歴史の浅いウクライナが国際的な評価と尊敬を確保したことは間違いがない。願わくは、ロシア軍が当初の目的を達成できずに、不名誉な撤退を余儀 なくされる結果になってもらいたいものだ。気になるのが、アジア諸国の反応の鈍さだ。中国がロシア寄りなのは想定内としても、それ以外のアジア諸国がロシアに対して相変わらず及び腰なのはいかがなものか。もちろん米欧とは利害や価値観が大きく異なるし、民主主義VS全体主義といったイデオロギー闘争には無縁な国も多いからやむを得ない面もあるが、歴史の動きを読み違えないでもらいたい。