2021年12月21日 編集後記

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

今年はソビエト連邦の崩壊(1991年12月26日)の30周年、また来年はソ連建国(1922年12月30日)の100周年に当たる。ソ連において実現した共産主義は、ナチズムと並ぶ20世紀の代表的な全体主義だが、ファシズムと共産主義はそもそも根本的に同一だとの考えもある。ナチズムがユダヤ人をはじめとする多数の犠牲者を出したことは今更言うまでもないが、ソ連を起点に世界各地に拡大した共産主義の犠牲者は絶対数ならもっと多いだろう(ソ連と中国だけでも1億人が殺害されたと推定する研究者もいる)。もちろん犠牲者の数を競っても意味はないし、ナチズムによるホロコーストには共産主義による弾圧や虐殺とは異なる特殊な意味があることも確かだが、人類に対する破壊行為として、共産主義がナ チズムを凌駕する規模を誇ることは疑いがない。なにより怖いのは、今ではさすがにナチズムを国是とする国はないのに対して、共産主義を堂々と掲げる国がまだそこここに残っていることである。ナチズムの罪を認めたドイツと違って、共産主義諸国は共産主義が犯した罪を認めようとせず、歴史の闇に葬ろうとしている。ソ連が生まれてから1世紀も経っているのに、未だに共産主義を信奉したり擁護する人がいることをどう考えたらいいのか、理解に苦しむが、20世紀の思想家や知識人の多くが共産主義に多かれ少なかれ影響を受けたことも明らかな事実であり、高い知能を備えた人々にどうしてそのような思想的錯乱や迷妄が発生したのかを歴史をたどり直して綿密に検証することが今後ますます重要な課題となるだろう。カギは一神教に特有の歴史観、キリスト教の焼き直しとして登場したドイツ観念論の宗教性、近代の人文社会科学を毒してきた疑似科学主義(宗教の延長ないし代替物であることを隠蔽)などにありそうだ。宗教は民衆のアヘンかも知れないが、その代替物として生まれた共産主義は知識人のアヘンだったのだろう。他方で、共産主義に対して批判的距離を置くことができた健全な知性の系譜をたどり直す作業も必要で、そのような弾力的な知性を可能にした条件やメカニズムは何だったのかを探ることも未来のための大切な課題だろう。