2021年9月21日 編集後記

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

オーストラリアがフランスからの潜水艦購入契約を突如解約して、米国から原子力推進の潜水艦を購入することを決めたことで、フランスは大きな衝撃を受けている。経済的な打撃もさることながら、外交・防衛における米仏間の信頼関係に深い亀裂が入ったことは否定できない。しかし、フランスから見ていっそう苛立たしいのは、米国がこの事態をさほど深刻に受け止めていないように思われることだ。今回の米国の振る舞いをフランスから見ると、フランスなどいくらじゃけんに扱おうと、最後は米国の助けを求めて、しっぽを振って寄ってくるほかないだろうと高をくくっているように見える。しかし、フランスは太平洋地域に大きな海洋領土を持ち、米中の対立に楔を打つ第三の大国として独自の防衛戦略を展開することを目指してきた。オーストラリアや日本との接近もそうした野心的な戦略の一環だったが、オーストラリアに見事に裏切られた。筆者は太平洋における日仏の連携に密かに期待していたのだが、フランスの脇の甘さにはいささか失望した。日本も外交や防衛で脇の甘い国だと定評があるが、甘い同士で連携しては破局的だ。
フランス国内ではこの失敗を教訓に、フランスと欧州を率いて、太平洋地域で米中対立に巻き込まれない独自の防衛戦略をいっそう強く推進するべきだとの声がある一方で、フランスや欧州がそのような大それた野心を抱くのは過去の栄光を忘れられない人々の誇大妄想であり、ここらで自らの無力さを自覚して、より現実的な選択肢を検討すべきだとの声もある。個人的にはフランスや欧州にはいつまでも壮大な夢と理想を追い求めて欲しいし、それがフランスと欧州の本来の歴史的・文明的な役割だろうとも思うが、他の地域や国々から注がれる眼差しはますます冷ややかなものになりつつあるのが寂しい。