2021年9月7日 編集後記

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

弊社の社名(KSM)は実はKikakusha Saint-Marcの略号であり、Saint-Marcは創業当時の事務所があったパリ2区のrue Saint-Marc(サン・マルク通り)に由来している。事務所のすぐ横にはパリの代表的な屋根付きパサージュの一つで、歴史建造物にも指定されているパサージュ・デ・パノラマがあり、筆者は通勤の際にこのパサージュを通ることもよくあった。また仕事の合間の息抜きに、パサージュをぶらぶらして、その雰囲気を楽しむこともあった。
ある日の午後、やはり息抜きにパサージュを散歩しつつ、ふと左側をみると、そこに俳優のジャンポール・ ベルモンドが立っていて、思わず立ち止まり、じろじろと見つめてしまった。パリを歩いていると偶然に著名人とすれ違ったりすることはそれほど稀ではないが、ベルモンド級の著名人が1人でぽつねんと佇んでいるところに出くわすのはやはりちょっとした驚きだった。
あとで帰宅時にポスターを見て分かったのだが、すぐ近所の劇場(テアトル・デ・バリエテ)でベルモンド主演の芝居が上演されていた。ベルモンドはパサージュの中のカフェから出てきたところだったのではないかと思われる。
そのベルモンドも88才で亡くなった。日本の映画ファンにとってはベルモンドというとゴダール監督の「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」に主演した俳優というイメージが強いのだろうが、フランスではアクションスターとして庶民の間でも人気が高かった。筆者は何度みてもゴダール作品の良さが全く理解できないので、ベルモンド主演作というとメルビル監督の「神父レオン・モラン(Léon Morin, prêtre)」が一番印象深い。ベルモンドの演技力がいかんなく発揮された傑作だと思うのだが、ネットで検索した限りでは、この作品は日本では未公開のままのようで、ちと残念だ。