フランスの食品ロス-その規模と対策

投稿日: カテゴリー: フランス産業

食品ロスは現代社会の大きな課題だ。倫理的な問題に加え、経済的な損失も大きい。2016年5月にフランス環境・エネルギー管理庁(ADEME)がまとめた報告書を基に、フランスの食品ロスの規模、その対策と新しいロス削減に向けたイニシアチブを紹介する。

先進国が「飽食の時代」を迎えて長いが、「食べ物を大事にする」ことは、時代を超え、文化を超えて、あらゆる社会に根付いた問題意識であるように思う。とはいえ、食品のロスは毎日、食品業界上流の農業者・畜産業者から下流のレストラン、さらには家庭まで、実にさまざまな場所で発生しており、大きな課題として認識されている。

2016年5月にフランス環境・エネルギー管理庁(ADEME)は、食品ロスの現状とその対策をまとめた報告書を発表した。報告書では、実態がつかみにくい食品ロスの規模を、既存の複数の調査の比較分析や独自のフィールド調査を通じて数値化し、ロスの原因を突き止めて、これを軽減するために具体的な施策を提案している。この報告書を中心に、フランスの食品ロスの規模を紹介し、その対策の機軸を見てみたい。

この報告書ではまず、食品ロスの現状把握の際の「定義」と「方法論」の問題を指摘している。食品ロスとは何を指すのか。この報告書では、2013年にフランス農業省のイニシアチブで策定された「食品ロスとの闘いのための全国協定」の定義を援用して、これを「フードチェーンのある段階において、ヒトによる消費を目的としながら、喪失、投棄、質の低下があったあらゆる食品」と定める。ここで重要なのは「ヒトによる消費を目的としている」という点だ。定義に従って、動物が食べるために生産される飼料はロスには含まれない。ただし、当初はヒト向けとされていたが、その後、動物向け食品に転用された食品はロスと見なされる。ここには価値の喪失があるからだ。

さらにこの調査では、収穫前に発生したロス(凍害や飼育中の家畜の死亡など)は排除される。また、加工・調理プロセスに由来する消費できないロス(骨、皮など)も排除される。その上で、経済的な「損失」と倫理的観点から見た「無駄」を合わせたものを「食品ロス」として捉えている。この定義とは異なる範囲をロスと見なす統計も多い。フランス国内でもフランス国立農学研究所(INRA)は、動物用(飼料・ペットフード)に転用された食品をロスと見なさない。いずれにせよ生産せねばならない動物向け食品を代替するものであるから、というのがその理由だ。国際連合食糧農業機関(FAO)の調査では、フードチェーンの上流(生産・加工)で生まれる損失(food loss)と、下流(流通・消費)に位置し、その発生の原因が主にヒトの行動様式にある廃棄物(food waste)とを区別している。欧州の食品ロス対策プログラム「FUSIONS」では、飼育中の動物の死もロスにカテゴライズする。このようなロスの定義や範囲の違いは、数ある統計の比較と評価を難しくする。

方法論に関しては、食品ロス評価が、基本的には関係者からの申告に基づくという点が問題になる。例えば、ロスには常にマイナスのイメージが伴うことから、統計を取る際に対象者が申告量を過小評価するという問題が挙げられ、この補正には、統計実施者の細やかな観察やヒアリングが必要になる。フードチェーンの段階別に食品ロスの規模を試算することにも問題が生じる。例えば生産者は、加工・流通業者との納入契約を守るために多めに生産し、これがロスにつながることがある。しかし、これは生産者側だけの問題ではなく、一定の納入量を求める加工・流通業者の問題であるともいえる。さらに返品の対象となるサイズ・形・見た目が規格に沿わない農産品のロスは、生産段階でのロスなのか、加工・流通業者の責任なのか。消費者の関心を引くために、小売店舗では取り扱う品目数を増やす傾向にあり、売れ残りを増やす一因となるが、これは消費者の要求度が高過ぎるのか、流通業者の戦略的問題なのか。

こういった諸問題を明らかにし、できるだけ誤差の是正に努めた上で、生産・加工・流通・消費という各段階に介入する570の関係者・団体から得られたヒアリングとデータ収集を基に、ADEMEは、フランスのフードチェーンから失われる食品の重量を年間1,000万トン、これらの経済的な損失を160億ユーロ、失われた食品のカーボンフットプリントを1,530万トン(二酸化炭素換算)相当と試算する。実にフランス国民1人当たり年間150キログラムの食品ロスが出ている計算になる。

生産された食品に占めるロスの割合(重量)はどうか。例えば卵の損失率は9%だが、傷みやすいレタスの損失率は57%、といった具合に、この数字は食品により大きく異なる。それでもあえて大まかな食品群別にこれを数値化すると、小麦など大規模栽培の作物では20%、青果では23% 、動物性食品では12%が生産量に対するロス率となる。全ての食品の平均を取ると、これが18%になる。

フードチェーンの段階別のロス発生分布、およびロスによる影響の分布はどうか。重量(1,000万トン)の内訳をフードチェーンの段階ごとに見ると、生産で32%、加工で21%、流通で14%、消費で33%となる。片や論理上の経済的損失(160億ユーロ)の内訳は、生産で13%、加工で14%、流通で29%、消費で45%となり、カーボンフットプリント(1,530万トン)の内訳は、生産で12%、加工で20%、流通で25%、消費で44%となる。重量で見たときに生産段階におけるロスが大きくなるのは、収穫された生産物は加工・消費される食品よりも重いことから当然のことといえる。経済的な影響を見たときに、消費者によるロスを要因とする割合が大きくなるのは、上流の段階の関係者が下流に経済的な損失分を転嫁する傾向に一因がある。

これらは総括的な数字だが、ADEMEは食品ごと、業態ごとの詳細なデータを収集し、これを分析しており、非常に興味深い資料を提供している。

この報告書では統計の紹介と並行して、ロス削減に向けた「ロスの根源を断つ」対策と「ロスの活用」対策を提案し、既存のロス削減イニシアチブを紹介している。生産に関してはまず、顧客との間の契約の仕様書条件緩和を試み、サイズ・形・見た目ではなく、生産物の質をより重要視するよう勧告している。これについては、顧客である加工・流通業界の理解が必須となり、加工・流通業者にとっての課題にもなる。

また生産過剰分について、消費者への直販など新たな販路の開拓を行うよう勧めている。地域密着型の短い販路を構築することで、生産者による消費者ニーズの把握が可能となり、生産をより需要に合わせることができる他、仲介業者が減ることで、ハンドリングや輸送中のショックが減り、ロス軽減をさらに進めることが可能になる。さらに加工業者には、ヒト向け食品の飼料やエネルギーへの転用を、流通業者には売り場管理の改善や、寄付に向けたネットワークづくりを提唱する。売り場の改善に関しては、近年、多くのハイパーマーケットやスーパーマーケットが「賞味・消費期限が近い食品」や「見た目の悪い食品」の安売りコーナーを設置している点を高く評価している。

消費者に含まれるレストラン・給食関係者にとっては、食べ残しを減らすために料理の提供に当たって適切な分量を見極めること、食べ残しを持ち帰ることのできるドギーバッグの導入が対策となる。同じく消費者である家庭には、賞味・消費期限の管理や、保存技術のノウハウ向上、計画的な購買などを勧めている。

ADEMEはロス対策の既存のイニシアチブを幾つか紹介しているが、ここには「新ビジネス」のアイデアも豊富だ。例えばサイズ・形・外見を理由にフードチェーンから外された、質に問題がない農産物だけを使って、ジャム・コンポート・缶詰などを作るイニシアチブ。回収経路と量の確保が課題となりそうだが、原材料が安価な上に、食品ロスを軽減しているという点でイメージの良い製品ができる。パリでは「シモーヌ・ルモン」や「フリーガン・ポニー」といったレストランが、売れ残り食品を回収して、それを調理・提供している。同じくパリのレストラン「エピ・デュパン」は、旅行ガイドにも載るような有名店だが、最近、野菜の切りくずを利用した料理を提案しているという。流通業者・消費者向けの「食品の期限管理アプリ・ソフト」も幾つか登場している。

環境への問題意識の向上やシェアリングエコノミーなどの出現で近年、消費行動が変化し、食べる物の選択についても意識が変わってきている点にも注目したい。味や見た目といった基準に加え、より安全な食品、よりフェアな形で生産・供給される食品を求める消費者が増え、食品にもリサイクルやシェアの概念がより浸透する余地があるように思われる。ここにも、やり方次第で、新たなミクロ流通の出現やこれまでにないビジネスの可能性があるだろう。

フランスは、前述の「食品ロスとの闘いのための全国協定」を通して、食品ロスを2025年までに半減することを目標に掲げている 。そのために、2016年2月11日付で政府は「食品ロス対策法(法律第2016-138号)」を公布した。この中では生産、加工、流通、消費の各段階における食品の損失・無駄を削減するための一連の措置が決められた。特にカルフールやモノプリといったハイパーマーケットやスーパーマーケットを展開する食品小売企業に対して、ロスの防止に努めるとともに、非政府組織(NGO)団体と協約を結んで、売れ残り食品を寄付に回したり、コンポストとして活用することを義務付け、画期的であると注目された。

ADEMEも指摘する通り、食品ロスにはフードチェーンに関わるあらゆるアクターが関係する。その発生のメカニズムは複雑であることもあり、あらゆる段階での小さな対策や意識の向上に加えて、フードチェーン全体での体系的な取り組みも必要とされる。また食品ロスは、何よりもまず「経済的な損失」であり、裏を返せばここには経済的なゲインがあることになる。食品ロスの削減は、倫理的・社会的なチャレンジであると同時に、食品業界全体にとっての経済的な損失の回収と、サプライチェーン最適化への挑戦であるといえそうだ。

(初出:MUFG BizBuddy 2017年2月)