たばこ屋の逆襲 収入多角化で勝ち残り目指す

投稿日: カテゴリー: フランス産業

禁煙化の流れの中で、先細りに悩むたばこ販売店は、生き残りを懸けて収入源の多角化に挑戦している。新聞・雑誌や宝くじなど、従来の多角化事業に加えて、携帯電話や金融サービスなど意外な新事業にも挑戦している。また、最大の競合品となった電子たばこへの対応も課題となっている。

タウリン入りのエナジードリンクがまだ出始めだったころ、行きつけのたばこ屋を訪れたらレジの前に小型の瓶が並べてあった。「これは何?」と尋ねると「飲むと元気になる飲み物なんだ。私もほら、朝が早いでしょ。飲んでみたらね、シャキッとしたねえ、これが」という答えが返ってきた。店の主人のセールストークに乗せられて、試しに1本買ってその場で飲んでみた。期待したほどではないね、と印象を告げると「もう1本飲んでみたら?」と笑い声が返ってきた。

たばこ販売店では、実にいろいろな物が売られている。この店の場合は、カウンターにこうしてその時々の話題の商品を並べ、飲料や菓子、ガムの類い、絵はがきなども置いている。さらに新聞・雑誌販売店も兼業しており、文具類やポケモンカードゲームのような子ども向きの製品も扱っている。また、国営の宝くじ会社「フランセーズ・デ・ジュー」の販売代理店も兼ねており、ロトやスピードくじを購入することができる。私自身は喫煙者ではないが、たばこ屋には新聞を買いに行っている。カフェがたばこ販売店を兼ねている場合も多い。

小売業などの日曜日の開店規制をはじめとする労働規制が厳しいこともあり、コンビニエンスストアの店舗展開がほとんど見られないフランスで、たばこ販売店は食料品や雑貨を中心に扱ういわゆる「アラブ人の店」(家族経営の小型店舗で北アフリカ系の出身者が経営している場合が多い)と並んで、付近住民に何かと便利な施設という役割を担っている。ちなみに、上述したたばこ屋の店の主人の朝が早いのも、新聞販売店を兼業しているからで、従業員を雇うと高くつくため自身と奥さんが交代で店を開ける。日曜営業は、従業員を使うのは原則として認められないが、商店主が自ら営業することはできるため、大手チェーンが入り込めないところで個人商店が日曜日も店を開けるという構図ができる。

とはいえ、たばこ販売店が安泰というわけではない。実情はむしろその逆で、嫌煙ブームが広がる中で、たばこ販売は先細りの傾向にある。喫煙対策で政府がたばこへの課税を引き上げるにつれて、密輸たばこの路上販売なども横行するようになっており、正規販売店が置かれる状況は一段と厳しくなっている。また、特に国境付近の地方にあるたばこ販売店は、より課税水準が低い隣国にたばこを買い出しに行く喫煙家が増えているために顧客を奪われ売り上げの低下に見舞われている。そのため、収入源の多角化はこれまで以上に重要な課題となっており、業界は死活問題としてこれに取り組んでいる。エナジードリンクといえども座興で置いてあったわけではないのだ。

多角化のユニークな例としては、使い捨てボールペンなど日用品大手のビックが開発した使い捨て携帯電話「ビックフォン」の販売取り次ぎがある。たばこ販売店は以前から、携帯各社のプリペイドカードの販売を取り次いでいるが、一歩進めて端末の販売にまで乗り出した。2008年に発売されたビックフォンは、発売当初は49ユーロの価格設定で売り出された。ビックはこの製品を「使い捨て」とは位置付けていないが、ベーシックな機能に限定した安価な端末として開発。子どもに持たせる、外国人観光客などが一時的に使う、といった需要が見込まれている。

現在販売されているビックフォンは5代目のバージョンで、価格は29.9ユーロまで下がり(15ユーロ分のプリペイドカード込み)、ブルートゥース通信機能とデジカメ、MP3プレーヤーが追加されている。充電する必要がなく、そのまますぐに使用可能な手軽さ(本人証明書のコピーと申請書を送付する必要があるが、正式登録までの間、5ユーロ分のクレジットは使用可能)が売り物で、簡便なサービスの提供という方向性は、たばこ販売店が目指すところとも一致している。

簡便な格安サービスの提供は、さらにユニークな銀行口座のサービス「コント・ニッケル」の販売取り次ぎにも見られる。たばこ販売店の連合会であるCNBFは、コント・ニッケルを開発した新規参入の金融機関FPEに5%を出資、その取り扱いを6年間にわたり独占する契約を2013年10月に獲得した。

コント・ニッケルは、銀行口座を持たない層を取り込むことを狙った格安の銀行口座のサービスで、顧客は契約時に20ユーロのセットを購入。たばこ販売店にある端末を利用して本人証明書のスキャンなどを行い、登録を済ませると、銀行カード(マスターカードとの提携によるデビットカード)が使用可能になり、オンラインバンキングに必要なIDや暗証番号も同時に発行されるという仕組みになっている。FPEによれば、最大限にサービスを使用した場合でも年間手数料は53.6ユーロ、通常の銀行に比べて3分の1程度と安い。

たばこ販売店の強みは、全国に2万7000カ所を数えるというその大規模な店舗網にある。全国をくまなくカバーしているという点では、郵便局・郵便取次所(同1万7000カ所)以外には、これほどのネットワークは見当たらない。1日の来店者数も1,000万人に上り、顧客に近い立ち位置で食い込めるのも強い。たばこ販売店側は、特にコント・ニッケルの取り扱いに伴い導入される端末を転用して、例えば公共料金の支払いなど、サービスの幅を一段と広げることを望んでいる。

コンビニ的なサービスの展開はたばこ販売店の悲願でもあるが、それに向けては課題も多い。例えばコント・ニッケルの取り扱いでは、金融サービスというくくりになることから、たばこ販売店がそれぞれ当局機関から認可を得て、資金洗浄対策のトレーニングを受ける必要がある。このため、取り扱いを開始した2013年10月時点では、取次店は全国で数十店、2014年初旬でも数百店にとどまる見通しで、得意の店舗網を迅速に活用する体制は整っていない。これはたばこ販売店が個人商店の集合体であり、フランチャイズ展開と比べても、規格統一の求心力がかなり弱いことが響いている。各店舗の財務面での足腰の強さの違いでも対応にはばらつきが出る。大規模な店舗網も、このままでは張り子の虎にすぎず、それにどう命を吹き込んでいくかが課題だろう。

そんなたばこ販売店が今、最も注目しているのは、何といっても電子たばこだ。電子たばこはカートリッジ内の液体を蒸気にして吸引する装置で、ニコチンが入っているものと、そうでないものがある。電子たばこ市場はこのところ年間15%の急成長を記録しており、2013年の市場規模は2億ユーロに上る見通しとなっている。電子たばこを扱う専門店は、「雨後のたけのこ」のようにというか、この国の慣用句で言えば「雨上がりのキノコ」のように増殖しており、店舗数は1年前の100店前後に対して、2013年末時点では600店を超えている。たばこ販売店側では、競合品の販売が自らを素通りしていることに危機感を強めていたが、このほど、予想外の朗報が舞い込んできた。トゥールーズ商事裁判所が2013年12月に、電子たばこの販売はたばこ販売店に限定されるとの法解釈を下したのだ。

この訴訟では、トゥールーズのたばこ販売店が、この販売店の至近距離で営業していた電子たばこ販売店の営業の禁止を求めて訴えていた。トゥールーズ商事裁はこの訴えを認めて、電子たばこ販売店の営業を不当競争行為と認定、その営業を禁止する判決を下した。敗訴した電子たばこ販売店は、即座に上訴することを決定したが、控訴審を待って、営業停止命令の執行は中断された。

トゥールーズ商事裁は、たばこの代替品をたばこと見なす旨を規定する公衆衛生法第L.3511-1条などを根拠に、電子たばこを正規のたばこ販売店以外が販売するのは、国によるたばこ販売独占権を侵害していると認定した。敗訴した電子たばこ販売店側は、電子たばこには規制がなく、従って国の独占権の侵害もないと主張し、控訴審で争う構えを見せている。今回の判決はまだ判例として確定したわけではないが、勢いづいたたばこ販売店側が、同様の訴訟を多数起こす可能性もある。収入多角化を狙うたばこ販売店は、電子たばこの販売独占に向けて大きな期待を寄せている。

(初出:MUFG BizBuddy 2014年1月)