欧州連合(EU)が2035年をもって乗用車新車の販売をゼロエミッション車に限定することについて、日本ではBEV一択ではなくなったと歓迎する報道が目立つ。合成燃料使用のエンジン車にも存続の可能性が認められるためだが、フランスでの報道を見る限り、合成燃料は生産コストが高すぎて、合成燃料のみを用いるエンジン車の販売は現実的ではないと判断されており、日本の論調には違和感を覚えた。日本はハイブリッド車に期待をかけてきただけに、BEVのみという選択に反発があるのだろうし、欧州の大手メーカーの間でもBEVへの全面的な移行には異論もあるが、妥当な価格の合成燃料を目指して研究開発に投資する余力があるメーカーは多くない。そもそも合成燃料によるエンジン車延命をドイツ政府がゴリ押ししたのは、連立与党の分断を回避するために、党勢回復を焦る自由民主党に花をもたせた政治的画策という側面が強い。今後に技術的なブレークスルーが起きて、安価な合成燃料が確保できるようになる可能性はゼロではないだろうが、それに賭けるのは宝籤並のリスクテイクになるのではないか。ドイツが自国の利益だけを優先して、こうした近視眼的なゴリ押しでEUの政策を混乱させるのは今にはじまったことではなく、それを真に受けて、EU全体の将来の方向性を代表しているかのように受け止めるのはいささか危険な気もする。