ノーベル賞作家の大江健三郎が亡くなり、フランスでもルモンド紙をはじめとする日刊紙・週刊誌に訃報を伝える記事が掲載され、その業績をかいつまんで紹介している。今年に入ってフランスで訃報が大きく扱われた日本人といえば、ほかに磯崎新(亡くなったのは昨年末)、豊田章一郎、松本零士などの諸氏だろう。いずれもそれぞれの分野で、世界的な影響を及ぼした人々だが、ふと思いついて、ウィキペディアで「大江健三郎」を検索してみると、86言語での説明があり、フランス語記事には「対談(Entretiens)」の項目に フランス人作家フィリップ・フォレストとの一連の対談があげられているのに気づいた。こういうものはすでに日本語に訳されているのか、それともフランス語で発表されただけなのかわからないが、英語版を見ると、これに該当する項目はないから、英語圏以上にフランスでの大江文学への関心は強いのかも知れない (もちろん、日本文学との縁が深いフォレストという異色の作家の存在が大きいに違いない)。
筆者は正直なところ、大江健三郎のファンではない。仏文科の大先輩でもあるので、若い頃に、初期作品を何作か読んだが、ひかれるところがないままに終わった。エッセイなどで表明された政治的立場にも全く共感できない。しかし、亡くなった機会に(というのは不謹慎かも知れないが)、半世紀近くを経て大江作品に再挑戦してみるものいいか、と思っている。