今年の最大の事件といえば、やはり大多数の人がロシアによるウクライナ侵攻をあげるだろう。戦争の帰趨はまだ定かではないし、まして、この事件が今後の人類史にどのような影響を及ぼすかを見通すことはほとんど不可能だが(過去において、したりげに未来を予測した人々はほぼことごとく判断を間違ったことを考えると、ここでその真似はしたくない)、これが一時期、世界各地の多くの識者により称揚されたグローバル化の楽観的ビジョンを再考する契機となることはまず間違いないだろう。世界が分断と保護主義の復活に向かうことは必ずしも悪いことではない。歴史や文化や信仰や思想を共有しない人間集団は、交通や経済関係の発展だけを通じて相互に理解し合えるようになるわけではない。根本的な価値観において相容れない集団がこれからも共存できるためには、できるだけ正面からの武力衝突を避けて、相互の交流を必要最低限にとどめておくのも知恵のうちだ。接触や交流が増えると相互理解も深まる、などという現象は現実にはほとんど起きないことがこの数十年間のグローバル化現象で得られた貴重な教訓だろう。悲しいことかもしれないが、世界は自己閉鎖と内向の時代に確実に向かっている。EUもそうだが、各地域が対立や分裂を孕む浅い拡大よりも深化と調和と独自性を優先すべき時期が来ているに違いない。