繰り返しを嫌うフランス語

投稿日: カテゴリー: 大熊猫集団の井戸端会議

筆者がまだ学生だったころ、フランス語で論文を書く機会があったのだが、その際に非常に面倒だったことの一つとして、フランス語では繰り返しが嫌われるということがある。同じことなのに、別の形で表現せねばならないのだ。これが面倒で、類義語辞典などを参照して、一生懸命繰り返しを避けたものだ。これは、新聞などでも同じことで、例えば、日本のことを「日の出る処の国(le pay du soleil levant)」と言い換えたり、韓国のことを「静かな朝の国(le Pays du matin calme)」、中国のことを「中華帝国(l’empire du milieu)」、タイのことを「微笑みの国(le pays du sourire)」などと言い換える。これらは既に慣用句となっているので、知っていれば別に困ることもないし、知らなくとも文脈で見当がつくことがほとんどなのだが、中には、執筆者自らが「発明」した言い換えもあるうえ、文脈だけでは分かりにくい場合もあるのでたちが悪い。上に挙げた言い換えでも、知らなければ、「静かな朝の国」が韓国を指しているとかピンとくる人はあまりいないのではないだろうか。学術論文の場合でも、重要な概念や言葉でさえ言い換えてあることがあり、気づかないと、とんでもない誤読をしてしまう可能性がある。フランス語の書籍の和訳を読んでいるとえらく分かりにくいときがあるのだが、原文と突き合わせて見ると、繰り返しを嫌うというフランス語の特性を訳者があまりよく理解しておらず、直訳してしまい、同じことが言い換えられているだけであるのにかかわらず、別のことであるように訳されている場合を見受ける。厳密性が必要な学術論文などでは、重要な概念や言葉ぐらいは同じ表現を繰り返した方がいいのではないのかと筆者などは思うのだが、皆が繰り返しを嫌うよう教育されているのか、これからも変わることはなさそうである。