パリ郊外にリサイクル・ヴィレッジ「La Venelle(ラ・ヴネル)」がオープン

投稿日: カテゴリー: フランス産業

フランス・パリ郊外のモントルイユ市にできたリサイクル・ヴィレッジ「La Venelle(ラ・ヴネル)」。低所得者向けの社会住宅も兼ねた集合住宅の1階に、古着や中古インテリア、家電など8店舗とカフェ・レストランが入居している。3R推進と地域活性化を目的とした自治体・NPO主導のプロジェクト「ラ・ヴネル」のビジネスモデルと将来性について、プロジェクト・コーディネーターから話をうかがった。

フランス・パリ郊外東部のモントルイユ市は、長年の共産党市政を通じて社会福祉政策が充実しているためか、移民が多い。特にフランスの旧植民地であった西アフリカのマリ、セネガル出身者が多く、嘘か誠か「バマコ(マリの首都)に次いでマリ人の人口が多い都市」ともいわれていた。だが、どこかスパイシーな香りのする異国情緒たっぷりだった街の様相が、ここ15年ほどで大きく変わってきている。地価が高騰するパリ市内から移り住んでくる左派の芸術・文化関係者や、クオリティ・オブ・ライフ(QOL、生活や人生の質など生きる上での満足度)を求める若い世代が急増しているからだ。今のモントルイユ市は、移民とボボ(Bourgeois(ブルジョア)とBohémien(ボヘミアン)の頭文字をとった造語で、ボヘミアン的・庶民的なライフスタイルを好みつつ、比較的裕福で文化的・リベラルな中流階級)が共存する街になっている。

そんなモントルイユ市で「リサイクル・ヴィレッジができるらしい」という噂が立ち始めたのは、2025年の年初あたりだっただろうか。そして2025年9月3日、ロベスピエール駅前に噂の「La Venelle(ラ・ヴネル)」がオープンした。9月20日には約6,000人を迎えるオープニングイベントが開催された。

ラ・ヴネルには9つのNPO(さまざまな社会貢献活動を行い、団体の構成員に対し、収益を分配することを目的としない団体の総称)が入居し、1,800平方メートル(m2)という用地で、リサイクル・リユース専門ショップ8店舗とカフェ・レストラン1店舗を展開している。古着や中古アクセサリーはもとより、家電、スポーツ用品・ウェア、舞台装置のリサイクル・リユースを専門とする店もある。カフェ・レストランでは定期的にDIY(Do It Yourself)教室や音楽・文化イベントが開かれ、自然とカルチャーセンター風のサードプレイス(自宅(ファースト)や学校・職場(セカンド)ではない、居心地の良いカフェなど「第3の場所」)ができあがっている。


ラ・ヴネルのサードプレイス「La Parallèle(ラ・パラレル)」
©️FELIX MARYE

【ラ・ヴネル入居NPOとその店舗】

Emmaüs Défi(エマウス・デフィ)

社会的弱者支援NPO。寄付などによって回収した衣服・家具・インテリア雑貨・電化製品の中古品を販売するリサイクルショップをフランス全土で展開している。社会的弱者の社会参入・復帰支援、医療へのアクセス確保なども推進する。


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Emmaüs Coup de main(エマウス・クードマン)

エマウス・デフィ同様に、パリ東部にリサイクルショップ7店舗と3カ所の物流センターを運営している。同時に、住居提供を通じて貧困世帯への支援を行っている。


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アトリエR-ARE

建設現場から出る廃材(古い窓やドア、フローリングなど)を利用して、家具や木製製品をデザイン・製造するアトリエ。


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ENVIE(アンヴィ)

家庭用の中古の小型・大型家電製品を回収し、修繕して販売している。販売する中古家電は、2年間の保証付き。


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La Collecterie(ラ・コレクトリ)

インテリアを彩る手作りの小物や工芸品(家具、テキスタイル、インテリア雑貨)を販売している。ラ・ヴネル内ではカフェ・レストラン「ラ・パラレル」も展開。


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La Ressourcerie Du Spectacle(ラ・ルスルスリ・デュ・スペクタクル)

舞台の音響・照明機材、舞台装置などの中古品を修理・販売している。


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NEPTUNE(ネプチューン)

古着や中古アクセサリーを回収・販売している。


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La Recyclerie Sportive(ラ・ルシクルリ・スポルティヴ)

中古のスポーツ用品・スポーツウェアを回収・販売している。自転車の修理も行う。


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Le REFER(ル・ルフェール)

地域リサイクルセンター・リサイクルショップのネットワーク事務所。


©️FELIX MARYE

ラ・ヴネル案内地図

ラ・ヴネル提供資料より

敷地内には、古着・中古インテリア小物の回収ボックスが複数あり、誰でも不要になったものを寄付できる。ボックスの中身や事務所に持ち込まれる中古家具・家電は、可能な限りラ・ヴネル内のNPOがリサイクル・リユースする。ヴィレッジを横断する遊歩道には草木が植えられ、ベンチとテーブルが配置されている。暖かい日にはコーヒーを片手に一休みする人や、ノートパソコンを取り出して仕事に励む人の姿がみられる。また、建物の2階以上は住宅になっている。木造りで、みるからにエコロジーでおしゃれな外観からは想像できないが、その30%は低所得世帯向けの「社会住宅」だ。

3R(Reduce(リデュース、廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース、再使用)、Recycle(リサイクル、再資源化)の頭文字で、循環型社会を目指す取り組み)と地域活性化を目指すラ・ヴネル。トレンドに乗ったコンセプトで、今のところ評判も上々だ。この大規模なプロジェクトがどのような経緯で実現したのか、果たしてこの理想郷は経済的に持続可能なのか。そんな疑問に答えてくれた、プロジェクト・コーディネーターのセドリック・マジエール氏の話を、以下にまとめる。

プロジェクト実現までの経緯

プロジェクトは2017年に開始した。当時、ロベスピエール駅前には、劣悪な住居が並ぶ荒廃した区画が広がっており、この区画はモントルイユ市から「再開発対象地域(ZAC)」に指定されていた。市は、この地区に新たな集合住宅を建設することを計画し、さらに合計1,800m2に及ぶ1階部分を活用するため、「社会連帯経済」を推進するプロジェクトを公募した。その際の落札者が、2013年から同市で活動するNPO「ラ・コレクトリ」であった。ラ・コレクトリが提案したのが「リユース・リサイクル店舗の展開と社会的弱者の就労支援」を目指すラ・ヴネル整備プロジェクトだった。

ラ・コレクトリはまず、モントルイユ市および不動産デベロッパーと、用地の購入に向けた価格交渉を行った。用地の賃貸ではなく購入を選んだわけだが、それには理由があったという。先にも述べた通り、このZAC内には、住宅も建設され、遊歩道、中庭、自転車置き場などの共有地もできる。将来の敷地内の不動産保有者は、遊歩道やその他の共有地を「私有地」とすることで、外部者の立ち入りを禁止することもできる。しかし、1階部分に入居する店舗やカフェ・レストランにとって外部からの来客は必須で、「立ち入り禁止」はなんとしても阻止しなければならない。そこでラ・コレクトリは、敷地内の不動産所有者が構成する不動産管理組織の中で発言権を持つために、あえて購入することを選んだというわけだ。

交渉の末、ラ・コレクトリは、相場の半額となる2,000ユーロ/1m2で1,800m2を購入する権利を得た。ラ・コレクトリの企画に、まずリサイクル関連NPO3、4団体が合流し、ラ・コレクトリを含む全NPOが株主となって設立したプロジェクト運営会社が、この用地を購入することに決まった。

新設された運営会社は、続いて、プロジェクトの資金調達を開始した。県(セーヌサンドニ県)、地域圏(イルドフランス地域圏)、民間金融機関(JPモルガン)などから補助金や融資を受け、プロジェクト予算630万ユーロを集めた。内訳は政府機関や自治体の補助金が250万ユーロ、金融機関からの借入が380万ユーロだったという。250万ユーロの補助金の中には、コロナ時に整備された欧州連合(EU)復興基金からの180万ユーロも含まれた。これは、フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)を経由して支援を受けたという。残りの70万ユーロは各自治体からの支援だった。

金融機関からの借入の大部分は、政府系金融機関フランス預金供託公庫(CDC)傘下のバンクデテリトワールから確保した。リブレA(利息非課税の貯蓄口座)の資金を運用する同行の融資は、返済期間が30年までと非常に長く、ラ・ヴネル運営会社も、通常の融資では20年が限界の返済期間を25年に設定できた。モントルイユ市を含むパリ郊外東部の自治体で構成する広域自治体「エスト・アンサンブル」が保証を引き受けてくれた。

プロジェクトの設計と実現

調達した資金のうち300万~400万ユーロは用地の購入に、150万ユーロは店舗改装工事に、残りは利払いに充てた。改装に利用した照明器具や間仕切り壁などは、ほとんどリサイクル・リユース材料であったという。52トン分のリサイクル・リユース資材を使い、二酸化炭素(CO2)換算で102.31トンを節約した。当初4、5団体だったラ・ヴネル参画NPOも徐々に9団体まで増えた。

初期投資の返済および運営会社の現在の運営費は、運営会社の株主でもあるNPOが支払う家賃で賄っている。用地購入価格も抑えられ、融資も有利な条件で受けられたため、家賃は市場価格の3分1に抑えることができている。利益よりも社会福祉的側面を重視するこうしたプロジェクトでは、志が高くとも採算が取れず、せっかく出店しても数年後に撤退せざるを得ないというケースも多い。しかし、複数のNPOが集まるラ・ヴネルでは、リスク分散ができており、プロジェクトの持続性が確保されているという。入居NPOは、運営会社の株主でもあるので、運営に参加する権利もあるが、同時に相応の責任も負っており、ラ・ヴネル全体の成功に向けて団結している。

リサイクル・リユース推進とともにラ・ヴネルプロジェクトのもう一つの目的となるのが、社会的弱者の社会参入支援である。障がい者や長期失業者を、期間限定で入居店舗で雇用し、販売、修理、物流、給仕などの仕事を習得してもらう。就職先を斡旋する「フランス・トラバイユ(フランス版ハローワーク)」らと連携して人材を確保している。就労に慣れるために週10時間くらいのリズムで働いている人もいれば、きっちりと法定労働時間(週35時間)働いている人もおり、平均するとラ・ヴネルの就労者の労働時間は、週26時間となる。通常の雇用契約期間は6カ月で、最大2年まで更新が可能だという。現在、ラ・ヴネルの9団体中6団体が社会的弱者を雇用しているが、ラ・ヴネル入居前から就労支援を活動の一つにしているところがほとんどなので、ノウハウもあり、各団体内の専門家が、就労者のキャリア形成をサポートしている。

こうしてみるとラ・ヴネルは、8年という歳月をかけて構想を練り上げ、万を期してスタートしており、野心的でありながらも、堅実に設計されたプロジェクトであると思われる。自治体からの強力な支援もあり、EU復興基金の支援が受けられるタイミングにプロジェクトが進んだこともラッキーだったかもしれないが、この構想が実現したのには、今回、話をうかがったマジエール氏の力量によるところも大きいだろう。

マジエール氏は、社会的弱者支援を使命とする大きなNPOで経験を積んだ後、社会・連帯経済プロジェクトの戦略策定、ファイナンス設計、交渉、運営をサポートするコンサルタントとして独立した。ラ・ヴネルプロジェクトには、2019年から参加。それまでも自治体が支援するサードプレイスの立ち上げなどで実績を積んできたが、ラ・ヴネルほど大規模なものは初めてだったという。

マジエール氏は、ラ・ヴネルは単なる消費の場ではなく、物を長く使い続ける方法を学ぶ場所でもあるという。すでに、DIYや自転車・家電修理のワークショップ、服のアップリサイクリング(廃棄予定の製品や廃棄物に、デザインなどの新たな付加価値を加えてより高品質なモノへ再生させること)教室、廃材の再利用ワークショップなどを実施しているが、近々、DIY・修理用の道具を有料で貸し出して、家庭での修理やリサイクル・リユース支援も開始する。

今後の課題も見えている。来客数を維持するために広報活動を拡充することだ。こういったプロジェクトは、オープン直後は盛況でも、長期的に顧客を維持するのは難しいこともある。同氏によれば、サードプレイスとは「時間帯によって集まってくる人の年齢や性別が違うものの、常に活気がある場所」であるべきだという。ラ・ヴネルでいえば、昼間は中古のスポーツ用品・家電や古着を買いにくる比較的家計が苦しい近所の移民出身の家族、夕方からは仕事後のコーヒーやビールを楽しみにやってくるボボやビジネスパーソン、週末はビンテージの掘り出し物を探す若者が集まる、といった具合である。人を集め続けるには、そんな多様なターゲットに向けて多面的に、良い製品やサービスを提供・発信し続ける必要があるという。

フランスは最近、C to C(個人間取引)の中古市場が興隆しており、良質な古着はVinted(日本の「メルカリ」のようなウェブサイト)で転売されているが、質が悪いものは市場からあふれ出している。マジエール氏によると、今日、服の生産を完全に止めたとしても、世界中の人々が40年間、毎日服を着替えられるだけの量が余っているのだそうだ。家電については、フランスでも購入時にエコ税(環境税)が課され、「拡大生産者責任」を負うメーカーが、リサイクルやリユースを進めることになっている。しかし、実際のところ回収品は、産業界にとって有利で簡単な廃棄処分とされることが多く、エコ税制度は導入当初の期待通りには機能していない。そんな消費社会に疑問を持って、モノとの新しい付き合い方を提案しつつ、経済的な支援だけに頼らない社会的弱者の底上げを目指す場所がラ・ヴネルなのだろう。

ラ・ヴネルの取り組みは、単体では小さなものにすぎないかもしれない。だが、小さな行動でも、それを起こさなければ、社会は変わらない。筆者はモントルイユ市に20年以上住んでおり、実は、今の我が家はラ・ヴネルの隣にある。以前はマリファナのディーラーがたむろしていたこの地区が、こんな風に生まれ変わるとは、数年前には想像もできなかった。ラ・ヴネルのオープンに合わせて、近くにはおしゃれなカフェやビストロが突然増え、このあたりは「モントルイユ市で今一番熱いエリア」といわれるようになった。同時に、相変わらず移民も多いこの界隈には、近所のカルフール(フランス発祥のスーパーマーケット)から拝借してきたカートに鉄板を置いた簡易バーベキューグリルでトウモロコシを焼き、道端で押し売りをしているセネガル人のおじさんも健在だ。「カルフールのカートをリサイクルしているトウモロコシ屋」も、ある意味ラ・ヴネルのコンセプトと融和性があるかも、などと、そして「我が家の壊れた自転車を金曜日に『ラ・ヴネル修理アトリエ』に持って行ってみるか」などと、ぼんやりと考える。

ラ・ヴネル外観


©️FELIX MARYE

(初出:MUFG BizBuddy 2026年4月)