建前なき米国

投稿日: カテゴリー: 大熊猫集団の井戸端会議

ウクライナ問題やグリーンランド問題で、米国と欧州の同盟国間の関係が軋んでいる上、米国及びイスラエルによるイラン攻撃で中東でも戦火が広まっている。そこで、このような動きの背景について少し考えてみた。
今の時代は、巨視的に見ると、自由主義と共産主義の両陣営の対立という構造が崩れたポスト冷戦時代である。冷戦時代には、米国は、共産主義諸国に対抗するため、同盟国である民主主義諸国との関係を重視し、(少なくとも表向きは)民主主義的な価値観を前面に押し出した。例えば、カーター元米大統領の人権外交は、民主主義的価値観を武器にするというもので、その最たるものだ。ところが、ベルリンの壁が崩壊した今、米国には、民主主義的価値観を重視するべき理由が無くなってしまった。民主主義諸国の共産主義化を恐れる必要が無くなったからだ。そこで、民主主義的価値観に縛られるよりは、米国の利益(エゴと言い換えてもよい)を優先すべきという考え方が強くなっているのだろう。このような考え方と、ビジネス優先のトランプ大統領という人物の特性が相まって、たとえ同盟国であっても、米国に利益をもたらさないならば切り捨てても構わないという傾向が強くなっているのだと思われる。というか、トランプ大統領が登場したということそのものが、このような傾向を背景にしていると見てよい。
トランプ大統領にとっては、豊富な地下資源を持つロシアとのディールが成立するのならば、ウクライナとウクライナを支援する欧州諸国など実はどうでもよいように思える。今回のイランとの戦争に関する米CNN局とのインタビューにおいて、大統領は、殺害されたハメネイ師の後継者として、民主主義を奉じる人物でなくても、米国とイスラエルや他の中東諸国を公平かつ公正に扱う人物なら誰でもよいと述べている。これは、米国の言うことを聞くなら何でもよく、民主主義的価値観という建前はもう意味がないと言っているようなものだ。企業に例えるならば、トランプ大統領の狙いは、イランという会社の企業文化の刷新ではなく、言うことを聞かない社長の首の挿げ替えである。
現時点では、トランプ大統領は、中国封じ込めを最大の課題とし、そのため、台湾問題を重視しているように見える。しかし、ありえなく見えるかもしれないが、米国と中国の間でディールが成立し、それが米国の利益になるのであれば、米国が台湾を見捨てる可能性は小さくない。1970年代に米中国交正常化が同盟国の頭ごなしに行われたことを覚えている方も多かろう。日本に関しても、事情は同じだ。究極的には、日本は、米国の対中国戦略の駒に過ぎないのであり、駒というものは、それを犠牲にすればより大きな利益が見込まれるのならば、捨てられるものだと考えたほうがよい。少なくとも、そのような可能性は頭の隅に置いておくべきだろう。
冷戦時代に、米国と欧州諸国の間に紛争が起きることを誰が予想できただろうか? しかし、時代は変わり、そのリスクは現実のものとなった。日本の指導者達には、このような変化を冷静に分析し、今後の方針を構築してほしいものだ。