以前、当時住んでいたグルノーブルの町を歩いていたら、「Kintsugi」というポスターが目に入った。金継ぎのアトリエかなにかの宣伝か、と思いきや、ラップのコンサートのポスターだった。私の頭の中ではもう10年くらい昔の話のような気がするのだが、調べてみたら2024年にDinosという有名ラッパーが「Kintsugi」というアルバムを出しているそうだ。もしかしたらポスターはもしかしたらほかのグループのものだったかもしれないが、ともかく、「Kintsugi」という単語に思いがけない形で出会って、何か嬉しい気持ちがした。なお、Dinosのインタビューを見てみたところ、芸術学校の出身だそうで、金継ぎの「弱さ、脆さを昇華させる、という哲学」が自分のスタイルそのものだ、と共感してタイトルを選んだそうだ。勿論、「Kintsugi」という単語をフランス語風の「キンツュジ」ではなくちゃんと「キンツギ」と発音していて流石である。
フランス人にとって、日本語の単語の響きは、日本人にとってのフランス語と同様エキゾチックなものなのだろうか。最近は、フランスの会社や機関が日本語の単語を名前に選ぶケースをちらほら見かける。2023年に、通信大手フリーの創業者グザビエ・ニエル氏が主導して立ち上げたAI研究拠点の名前は「Kyutai」。ずばり「球体」からきているそうだ。日本人の私が聞いてもなんだかミステリアスで素敵な名前だという気がするが、ニエル氏によると、その意味に加え、「Cute AI」にも聞こえる響きが気に入ったとのこと。「Kyutai」は2024年に音声処理モデルを発表したが、こちらの名前は「Moshi」で、これも「もしもし」から来ているというから、よほど日本が好きなのかもしれない。
個人的に思い出深いのは、以前調査をしている時に発見した、Akuo Energyという再生可能エネルギー事業者である。2007年の創業で、欧州と米州を中心に15ヵ国超でプロジェクトの開発を進めており、2025年に仏投資ファンドのアーディアン傘下に入った。同社サイトの説明によると、なんでもこの名前は日本の白鳳時代から来ているというのである(フランス語はhを発音しないので、hakuhoは実質的にakuo、アキュオという発音になるのである)。「白鳳時代は、7世紀末に政治、芸術、社会、精神面での発展と再生をもたらしました。また、白鳳は、自らの灰から再生する神話上の鳥の名前でもあります」と同社はその名の由来を説明している。これまた、日本愛を感じる名前ではないだろうか。