西アフリカのセネガルを起点に、アフリカの未電化地域に電気と通信を届けるTUMIQUI Projectを立ち上げ、診療所への電力・通信の導入、学校でのデジタル学習環境の構築に取り組むシュークルキューブジャポン。現在は、アフリカの農産品を冷蔵・加工・輸出することで、自律的で持続可能な現地産業を育て、国際市場へとつなげる新たな挑戦を進めている。代表の佐藤氏に話をうかがった。
「社会と産業、未来をともに創る」をスローガンに、アフリカの人々の生活に違いをもたらす活動を地道に続け、アフリカと共に成長するシュークルキューブジャポン。2008年にフランスでSUCRECUBE Technologies(シュークルキューブテクノロジーズ)を創業した佐藤弘一氏が、アフリカでのビジネス展開に向け、自らの原点である日本発のスタートアップとして創設した会社だ。フランス事業で培った通信・ITインフラ分野での経験を、アフリカの電化・デジタル化・産業化支援へと進化させ、民間による国際協力の新たな形を追求する。
佐藤氏は、西アフリカのセネガルを起点に、アフリカの未電化地域に電気と通信を届けるTUMIQUI Project(ツミキ プロジェクト)を立ち上げ、診療所への電力・通信の導入、さらに、学校でのデジタル学習環境の構築に取り組んできた。電気のない診療所や教室に明かりと接続性が生まれたことで、「1つの道具が命や学びを守る」可能性が、現場で実感されたという。そして、こうした体験を原点に、太陽光発電やリユースの活用、気候変動への対応、地域雇用、技術移転、教育格差の是正といったSDGs(持続可能な開発目標)の実現に直結する実証活動へと活動の幅を広げ、2021年には、第5回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞した。現在は、アフリカの農産品を冷蔵・加工・輸出する事業も開始し、自律的で持続可能な現地産業を育て、国際市場へとつなげる新たな挑戦を進めている。代表の佐藤氏に話をうかがった。
長年フランスで事業をされてきましたが、どのようなきっかけでアフリカに着目されたのでしょうか。
フランスで普通に暮らしているとアフリカに行く機会はありませんよね。だから、最初はアフリカに行くつもりは全くなかったわけです。そこへ、昔、仕事をしていたNTTから、アフリカで仕事があるから手伝ってほしいと依頼があったんです。というのも、日本人が使うIT用語は英語ベースですが、フランス語のIT用語は独特なので、言葉の分かる人に行ってもらいたいと。それで、カメルーン、ニジェール、セネガルなどの国をいくつか回ったんです。渡航前は、予防注射をたくさん打ったり、他の人から「病原菌がいるかもしれないからシャワーを浴びる時は口を閉じなきゃだめだ」なんて注意されたり、ドキドキしながら行ったわけですよ。
そうしたら、全然違う世界が待っていたわけですよね。日本ともフランスとも違う。子どもたちの目がキラキラ輝いていて、こんな子どもたちって見たことないなと思いました。ドアも、開き戸や引き戸ではなく、ただ単に壁に立てかけてあって持ち上げて横に置くドアもあるんだ、とか。そういったことを目の当たりにして、いろいろと価値観が変わったんです。
そんな中で、都市部ではほとんど問題なく接続できるインターネットも、地方に行ったら全然つながらないということを実感しました。それは電気がないから、アンテナが足りないから、というのが理由だと分かり、「ここでできることもあるかもしれない」と思ったわけです。でも、その時は具体的に何ができるのかは分からなかった。
アフリカに初めて行ったのは2015年で、その後、2018年に国際協力機構(JICA)のSDGsスタディツアーに参加しました。その時に課題として与えられた水と保健の中から保健を選び、ウガンダとセネガルの診療所を訪問しました。その時に、「出産が危険だ」という話を聞いたわけです。どちらの国の医師も同じことを言ったのですが、真っ暗闇の出産では、口にランプを加えて出産するそうなんです。「ちょっと待って、真っ暗闇の中で出産って何?」と思ったわけですよね。世界中で、年間数十万人が出産時に命を落としているといいます。その大半はアフリカでの出産であろうと思いました。だから、たった1つのランプがあるだけで、母親と子どもの命を救えるのはすごく大きな事だと思ったし、通信が整っていれば、いろいろなデータのやり取りもできる。我々のスマートフォンもインターネットも圏外だとつながらず、意味をなさない。そういう状況を変えたいと思って、一生をかけて取り組もうと思ったんですよね。
それから、私は英語が話せないのですが、フランス語圏アフリカに行ったら「ボンジュール、ムッシュー」とフランス語が通じる。衝撃だったわけですよ、便利だなと。フランス語を話す日本人も少ないから重宝がられたし、フランスに20年もいたので、フランスとの親和性も感じた。セネガルという国は、比較的汚職も少ないし、海もあるし、そして米を食べる国なんです。こうしたいろいろな親和性を感じて、セネガルを選びました。
電力インフラのない診療所でも、安全に出産・診療・記録管理ができる環境作りを目指して、TUMIQUI Smart Kit(ツミキスマートキット)がセネガルの10カ所の未電化診療所に導入されました。これはどのように開発されたのですか。
初めはコンセプトモデルとして、100円ショップで買ったもので組み立てたんです。太陽光パネルを秋葉原で買ってきて、筐体(きょうたい)というか箱は100円ショップのプラスチックの箱を用意して、バッテリーと太陽光発電を入れ、USBを挿せるようにして。今はそういったバッテリーパックみたいなものが売られていますが、当時はなかったんです。でも、コンセプトはあるから、どこかにものはあるはずだと思っていました。
そうしたときに、大阪の展示会に行きました。そこで、自分が100円ショップで買って作ったものよりちゃんとした、製品化されたものがあるはずだと思って見ていたら、「まさしくこれ!」という製品があったんです。作っているのは台湾の会社で、それをアフリカ仕様に改造というか、オーダーする形で注文しました。アフリカには、現地で組み立てて現地で直せる製品がほとんどありません。我々はもともと手作りでやっていたので、そういう、現地で組み立てたり修理できる会社を探していたのですが、ちょうど彼らがそういう仕事をしていた。大阪で台湾人と出会ったことが今につながっています。
現地にTUMIQUI JAPON(ツミキ ジャポン)という会社を設立して、人材育成にも力を入れていらっしゃいますね。技術者にも教えて、セネガルで修理できるような体制を整えている。作って設置して終わり、ではない。
育てるとか、そんなに仰々しいことではなく、組み立て方を教えているという感じです。我々シュークルキューブテクノロジーズというフランスの会社は、お客さまの要望に応じ、電気配線やIT通信機器を組み合わせて設置し、保守する会社なんです。やはり、現地で修理できるからこそ、システムインテグレーターとしての存在意義がある。それが今でも続いています。
それから、現地の特性にあったものを提供することも大切です。例えば、セネガルは年間を通じて高温なので、暑さも考慮する必要があります。設置型の太陽光パネルは夜中に盗まれたりするので、持ち帰りができるポータブル製品にした点も評価されています。
TUMIQUI Smart Kitは、診療所だけでなく学校にも導入されました。
最初に診療所に導入したのが2019年で、その後も試行錯誤しているうちに、コロナ禍になってしまったんです。我々は保健・社会活動省を相手に仕事していましたが、コロナ禍になり保健・社会活動省がめちゃくちゃ忙しくなってしまった。カウンターパートだった事務次官が忙しすぎて時間が全然取れなくなってしまい、プロジェクトが頓挫したわけです。
その時に、我々が事務所を置いているセネガル・サンジャラ市の市長に、「保健・社会活動省が忙しすぎて計画が頓挫して困っている」と言いました。サンジャラ市長は、大統領顧問も務めていて、さまざまなビジョンを持ち、教育に対しても非常に関心の高い方でした。そうしたら、いつの間にか、国民教育省に我々の計画を売り込んでくれて。我々に「教育をやりなさい」と。当時、子どもたちは、コロナ禍で学校に通えなくなり、教育が崩壊していたらしいのです。インターネットがあることを前提に作られているシステムは、電気やインターネットがない環境では使えませんが、電力を作り出し、テレビを動かすソリューションであることが評価されました。そして、国民教育省の事務次官を紹介いただき、2021年ごろからサンジャラ市で実証事業を始めました。これまでにTUMIQUI Smart Kitは20校に設置されています。
先ほどの診療所への導入にあたり、必要な費用は保健・社会活動省から出たのでしょうか。
はじめは我々の実証事業ということで、資本金300万円の会社の200万円を使って寄付しました。まずはやってみましょう、ということで導入してもらい、保健・社会活動省には、その後、本格的採用に向かう段階で協力をお願いしたわけです。彼らは初めから予算は念頭にないので、やはりユニセフ(国連児童基金)とか国際機関と組んで導入してもらうことになります。でも、そのためには、まず、多くの患者が助かるとか、学校で使えるとか、実証しなければいけない。
JICAのSDGsスタディツアーで知り合い、名刺交換して非常に馬が合っていい人だなあと思った保健・社会活動省の事務次官がいました。彼をノーアポで訪ねましたが、もちろん会ってはもらえません。でも、3カ月訪ね続けたら、3カ月目に「OK、5分あるから時間をやろう」と言われたんです。事務次官自らがその場で私の計画内容を確認して、修正、印刷して、覚書(MOU)にサインしてくれました。スタートアップらしい動き方でしたね。その保健・社会活動省のMOUがあったからこそ、国民教育省とのMOUを結ぶことができ、そして今、産業・通商省とのMOUの締結にもつながりました。そういった省庁との連携が我々の強みといえるかもしれません。
今、資金はどこから出ているのですか。
まず、関西電力や日ノ樹、シブサワ・アンド・カンパニーから出資いただいています。シブサワ・アンド・カンパニーの最高経営責任者(CEO)とAAIC Holdingsの代表取締役にはアドバイザーになっていただいています。また、アフリカの事業で初めから資金を得るのは難しいので、日本の総務省のアフリカでの実証事業や経済産業省のグローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金を、官民連携の形で活用しています。
プロジェクトを始動したころ、当時の日本貿易振興機構(ジェトロ)・パリ事務所長から、アフリカのミッションに誘われて、コートジボワールとナイジェリアに行きました。そのパリ事務所長(当時)に、「アフリカに進出したい」と話したら、「フランスから進出するとフランス企業になるけれど、いったん日本に戻ってからアフリカに進出すれば日本企業だよ。そこをジェトロ・パリが支援するから」と言われました。そこでまず、対日投資企業として日本に進出したんです。ジェトロの本部に90日間間借りして、シュークルキューブジャポンという会社を作り、最終的に自分で株を全部買い取って100%日本の会社にしました。その子会社としてTUMIQUI JAPONというアフリカ事業の会社を作ったので、TUMIQUI JAPONは日本企業だと認められ、日本の省庁との連携がしやすくなったという経緯があります。日本にいる方は、そういう苦労は少ないと思いますが、日本人が海外で現地法人を作ると日本企業とはみなされません。そういう点で、日本に助けてもらい、今に至っています(後編に続く)。
(初出:MUFG BizBuddy 2026年1月)