筆者が子供だった頃、地元に「ボンルパ」という不思議な響きを持つレストランがあった。フランス語を習って、それが「よいお食事(bon repas)」という意味だ、と知ったときは、なんだか長年のつかえがとれたような爽快さを感じた。
さて筆者の仏滞在は四半世紀を超えたが、最近、日本に一時帰国する機会が多くなった。日本の街角を歩くと気になるのが、お店の名前や、アパートの名前に散見される、ほぼ確実にフランス語由来であろうと思われる言葉である。こうしたフランス語は、「フランポネ」と呼ばれる。時に定冠詞が違っていたり、文法に合わなかったり頓珍漢なものが多いが、しっかりしたものもあり、玉石混交。これを散歩中に探すのがなかなか楽しい。
アパートの名前に「メゾン(Maison、家)XXX」とつけるのは、『めぞん一刻』の影響なのか、もはや日本の伝統の一つになった感?すらある。最近は用法がより複雑度を増している印象で、「メゾン」に飽き足らず、「メゾン・ボヌール(bonheur、幸福)」なる名前も見かけたし、「シェソワ(chez soi、自分の家)」というアパート、「トルネラパージュ(Tourner la page、ページをめくる、転じて「心機一転する」の意)」というレストランを見たときはオララ、と叫びそうになった。
それにしても日本語の中に取り込まれたフランス語由来の単語の数は、この25年で、料理用語をはじめとして増えた。筆者はフランスに来て、ジビエという言葉と概念に出会いひどく感心したのであったが、それが数年後に日本でも普通に使われるようになった時は仰天したものである。日仏両国の距離が縮まった証拠であろうか。
ところで、先日日本で買い物をしている時に、「エシャレット」という野菜が売っていて、自粛警察ならぬフランス語警察を勝手に自認する筆者は、これはフランスで言うネギの一種エシャロットの間違いに違いない、未だにこのような間違いがあるとは、フランス語の啓蒙活動もまだまだ改善の余地があるぞよ、と思ったのであったが、なんとなく気になって調べてみたところ、生食用に軟白栽培されたラッキョウについて、築地の業者の方が、「根ラッキョウ」よりもおしゃれな名前を、と考えた末に、「エシャロット」を少し変えて「エシャレット」にしたのだ、という…。恐るべし、フランポネ。