前世紀の末に、21世紀は宗教の世紀になる、との見方があったが、それを裏付けるかのように、昨今のフランスでは若者の間で宗教への傾倒が強まっているという。もっとも、宗教の影響力が低下していたのは、主に西欧や共産圏などでの局所的現象であり、他の地域では宗教は相変わらず政治・社会・家族・心理に強い影響を及ぼし続けていたのではなかろうか。21世紀になって宗教の復権が起きたように見えるのは、宗教を科学の進歩やマルクス主義の実践により排除できるという西洋近代の幻想が剥がれ落ちただけなのだろう。それと無関係ではないが、ポストモダンの時代におけるいわゆる「大きな物語の終焉」が穿った空隙を宗教がとりあえず手軽に埋めてくれるという側面ももちろんあるに違いない。原理主義的な信仰の弊害は常に警戒しなければならないが、未来に希望を抱くのが難しい現代の若者に、使い古されてはいるがしっかりと整備済みの伝統的な幻想の体系である宗教が一定の心の安らぎや拠り所をもたらしてくれるなら、必ずしも悪いことではない。宗教は確かに「大衆のアヘン」かも知れないが、本物のアヘンよりは健康に良さそうだ(なお筆者はどちらのアヘンも未経験なので確信はない)。功利主義的な観点から、不幸を最小化する手段として、宗教の有効利用とリサイクルを是認することは可能だろう。