フランスのDIY業界

投稿日: カテゴリー: フランス産業

フランスではDIY(Do It Yourself)産業が非常に発展している。本稿ではその現状を紹介しつつ、日本との比較などを交えながら、その理由について考察してみたい。

筆者はフランスで人生の半分以上を過ごしているのだが、フランス人のDIY(Do It Yourself、専門業者に頼らず、自分で物を作ったり修理したりする活動全般)精神には度々驚かされる。日本でなら職人に頼むような工事でも、どんどん自分たちでやってしまうのだ。例えば、わが家で大規模リフォームをした際、浴室と台所の壁のタイル貼りは妻と義妹が行ったのだが、その出来栄えはプロ並みだった。また、わが家のテラスのフローリングも、インターネットからの情報や友人からのアドバイスを受けつつ、筆者と妻で貼った。安値で廃屋を購入して、長年かけて自ら改修している人たちも数多い。


筆者の妻と義妹が壁と床のタイルをリフォームした浴室

このようなDIY精神を背景としてか、フランスのDIY産業は非常に規模が大きく、総売上高は2024年に221億ユーロ(約4兆円)に達している。ちなみに、日本のホームセンター業界の総売上高は2024年時点で約227億ユーロ(約4兆180億円)とフランスと同程度に見える。しかし、日本のホームセンターでは、カー用品や自転車、アウトドア用品、スポーツ・ホビー用品、ペット用品・フードなども取り扱っており、フランスにおけるDIY用品には含まれないものが多い。それらを除くと、日本のDIY産業の売上高は約84億6300万ユーロ(1兆5000億円)程度しかないと推定できる。日本の人口(約1億2337万人、2025年6月、総務省統計局)がフランス(約6,860万人、2025年1月1日、フランス国立統計経済研究所)の倍近くあることを加味すると、日本のDIY用品業界の規模は、フランスの5分の1程度しかないと考えられる。


フランスのホームセンターにはDIY用の商品が多数そろっている

また、フランスの業界大手ルロワ・メルラン(Leroy Merlin)の売上高は、2024年時点で約85億ユーロ(約1兆5000億円)となっており、それだけで日本のDIY用品業界の総売上高に匹敵する。ただし、同社はフランスだけでなく、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、キプロス、ルーマニア、ポーランド、ウクライナ、ロシア、中国、カザフスタン、南アフリカ共和国、コートジボワール、ブラジルなどに進出しており、売上高のすべてが国内のものではない。これに対し、日本の大手カインズの売上高は、フランスではDIY用品に分類されない商品を含めても、2023年度時点で5,423億円(約30億5000万ユーロ)で、国外進出はしていない。

このようなフランスにおけるDIY業界の発展ぶりの理由はいくつか考えられるが、まず頭に浮かぶのは、フランスの住宅市場が中古住宅を中心としていることだ。木造建築が多い日本とは異なり、フランスでは住居が石造であることが多く、いったん建ててしまうと取り壊すのが困難かつ費用がかかる。そのため、中古住宅を購入し、そのまま住むかリフォームするというのが一般的だ。例えば、筆者が住むアパートは18世紀の建造物で、日本なら文化財になりそうだが、わが家の周囲の建物はほぼみんな同様の古さである。ただし、中身は代々の住民がリフォームを重ねてきたことから、建造当時の面影はまったくない。

そのような住居をリフォームする際、全面的に専門業者や職人に依頼する場合もあるが、素人では手に負えない部分だけを専門業者や職人に依頼し、その他の細部は自らやってしまうケースが多い。筆者のアパートの場合もまさにそれだ。中には、すべて自分でやってしまう強者(つわもの)も多い。また、田園地帯では、人が住まなくなったせいで荒れ果てた物件を安値で買い取り、リフォームを施した上で、より高値で転売や賃貸するというビジネスもある。現在は不動産屋を営んでいる筆者の知人も、若い頃にこうしたビジネスをしていたし、妻の姪も現在、同じビジネスをしている。筆者の友人や妻の姪は、趣味で始めたDIYがそのままビジネスに転換した例だ。

もう1つの理由として、フランス人には余暇が多いということが挙げられる。フランスでは、週労働時間35時間制で時間に余裕のある人が多い上、大半の人が有給休暇をきっちり消化する。また、年金受給開始年齢は62歳とそれほど低くはないものの、さまざまな早期退職制度(例えば、警官など一部の公務員の年金受給開始年齢は52歳)や、しばしば企業による人員削減計画の一環として行われる希望退職により、50代半ばに退職する人が結構多い。加えて、教職員などのバカンスは他の職種の人よりもかなり長めだ。リフォームやガーデニングに費やせる時間も、当然ながら長くなる。

これは推測になるが、フランスでは、素人がリフォームを自ら手掛けることが多いため、DIY用品メーカーやルロワ・メルランなどのDIY専門店(日本のホームセンターとは、取り扱い分野がかなり異なるので、こちらの用語にする)が、素人でも扱いやすい用具の開発に熱心であり、それがさらに素人のDIY意欲をかき立てるという好循環が生まれているように思われる。また、経験者が多いため、他のDIY愛好家からアドバイスを受けることも容易だ。

筆者の経験を語ると、わが家のテラスに照明器具を取り付けるため、妻とともに電気配線工事をしたことがある。その際、DIY専門店でどの器具を買えばいいのか悩んでいると、隣にいた2人組の客が分かりやすく説明してくれた。念のため、彼らにプロなのかどうか聞いてみると、「ただの愛好家だが、以前、同様の工事をしたことがある」とのことだった。テラスのフローリングに関しても、経験者の友人からアドバイスを受けたのは上述の通り。DIY専門店側も、一般向けの無料講習サービスや大型器具・用具の有料貸し出しサービスを提供するなど、さまざまな努力をしているようだ。

ところで、フランス語ではDIYのことをブリコラージュと呼んでいる。ブリコラージュとは、「ありあわせのもので自分でなにかを作る、あるいは物を修繕すること」を意味しており、設計図に従って完成品を目指すエンジニアリングと対照をなす語だ。ブリコラージュを料理にたとえるならば、ある確立したレシピに従って料理するのではなく、ありあわせの材料を使う「アルモンデ」(https://gendai.media/articles/-/120484?imp=0)に近いといえるだろう。筆者は、フランスで和風料理を作るときに、時々、料理レシピのウェブサイトのお世話になる。掲載されているレシピで使われる食材や調味料が、フランスでは入手困難であったり、入手できても高価だったりする場合は、入手が容易なありあわせのもので代用している。そのため、出来上がりはいつもどこのものかわからない一品になってしまう。ラーメンの麺は、スパゲティに重曹を加えて煮て作る、みりんは白ワインとはちみつで代用するなど、そういった方面ばかり知恵がついた。これが、まさに「アルモンデ」でありブリコラージュだ。

フランスでは、ブリコラージュに対して、「やっつけ仕事」「お座なりな修繕」というマイナス・イメージもある。一方で、文化人類学者で構造主義の先駆者でもあるクロード・レヴィ=ストロースは、著書『野生の思考』において、ブリコラージュを人類が古くから持っていた知のあり方である「野生の思考」的なものと捉えた。その上で、神話や呪術は、現実に起こった事件に関する伝承や、先行する民族や近隣の民族の神話がツギハギされることによって形成されたブリコラージュ的なものだとの論を展開した。このように、ブリコラージュは積極的な意味合いを持つことも多く、絵画、彫刻、音楽などのさまざまな分野においても重要な概念や手法となっている。キマイラ(ギリシャ神話に登場するライオン、ヤギ、ヘビの3つの動物の特徴を併せ持つ怪物)やフランケンシュタイン、ポケットモンスター(ポケモン)、ウルトラマン・シリーズの怪獣なども、何らかのブリコラージュの産物といえるだろう。

また、ブリコラージュはありあわせのもので作られることから、出来栄えはともかく必然的に1回限りの個性的なものとなる。 多くの場合、大量生産とは対極にあるのものだ。 自分で作れるという楽しみに加え、このような個性の追求を可能にするという面が、フランスでのDIY産業の発展の底流にあるのかもしれない。

フランスのDIY業界というテーマからは離れてしまうが、ブリコラージュという概念は、現在ではさらに重要な意味を持ちつつある。 なぜなら、実は、生成人工知能(AI)が行っていることが、まさにブリコラージュといえるからだ。 生成AIは、大量のデータを学習した上で、与えられた指示とアルゴリズムに従ってコンテンツを作り出している。 しかし、それらを作り出したデータは、「ありあわせ」のものでしかなく、生成AIがもたらすコンテンツは、データの質と量次第である。 利用できるデータが多く、質が高いほど、ブリコラージュにより生成されるものはより精巧になる。 また、生成AIは、与えられたデータ内にないものを「創造」することはできないので、「でっち上げ」てしまう。 それが「創造」だといわれれば、もちろん、そうなのだろうといわざるを得ないが……。

多少脱線してしまったが、最後に究極のブリコラージュの例として、Palais idéal du facteur Cheval(シュヴァルの理想宮、https://www.facteurcheval.com/、https://www.facteurcheval.com/wp-content/uploads/2021/02/Guide-de-visite-JP.pdf)を紹介しておこう。詳しい説明はリンク先を読んでいただければよいので省くが、一見の価値はある。ご存じの方も多いかもしれないが、日本にもブリコラージュの典型例があるので、そちらも紹介しておこう。沢田マンション(https://sawadamansion.net/)である。

(初出:MUFG BizBuddy 2025年11月)