フランスの賃貸住宅事情

投稿日: カテゴリー: フランス社会事情

フランスではここ数年、賃貸住宅需要が増加する一方で、空き物件は非常に少なく、不動産市場関係者に言わせると「危機的状況」を呈している。賃貸住宅不足の原因、これに直撃されている学生の対応、自治体や政府による対策などを概観してみたい。

例年夏場は、9月の新学期に向けて学生の住宅探しが過熱する。都市圏の賃貸住宅市場はもともと需給が逼迫していたが、ここ数年の情勢は、借りる側にとってますます過酷になっている。

Lodgis(家具付き賃貸専門の不動産仲介業者)のデータでは、家具付き賃貸住宅の需要はこの1年間で40%増加し、パリ市内の空き物件は皆無に近いという。契約形態としては、賃貸期間が10カ月以内で更新不可の短期契約(Bail mobilité)が2024年比で4.4ポイント減少し、通常の住宅賃貸契約(Bail résidence principale)が同6.9ポイント増加した。

PAP(個人間の不動産広告)によると、パリ市内のワンルームの賃貸広告には平均832人の希望者が殺到、広告掲載後数日間で希望者が1,000人を超える物件もあるという。ワンルームの検索が全体の66%を占めており、平均的な物件で広さが16平米、家賃は月額727ユーロ。家賃の値上げ規制の成果か、家賃上昇率はパリ市全体で0.45%、市心部でも1.9%にとどまった。

地方では、例えば学生が多いボルドー市で家賃上昇率が8.15%、1つの物件の賃借希望者は平均25人で、出広後10日足らずで次の借り手が決まる。リヨン市では、外国人ビジネスパーソンが急増して物件が不足し、家賃が11.2%も急騰した。

Bien’ici(不動産広告プラットフォーム)によると、2025年5月の賃貸物件広告件数は前年5月よりも2%減ったが、賃貸需要の方は全く衰えていない。また、賃貸物件の広告件数は全体の14%だった(逆に言えば、広告の86%が売り物件)が、2021年夏には広告の35~40%が賃貸物件だった。引き合いは小世帯向け賃貸物件に集中しており、ワンルーム、2室、3室の賃貸希望が全体の85%を占めている。学生向けの物件広告は、レンヌ市やリール市で2024年の夏には既に2023年夏から半減していた。

Foncia(不動産仲介・管理)は、賃貸物件40万件の管理を手掛けているが、空き物件は減る一方で、この1年間で12%減少した。リヨン、ボルドー、パリ、ニース、カンヌでは、空き物件が全体の1%未満、トゥールーズで1~2%。賃借人が解約した物件の半数が、30日以内に次の賃借人と契約が成立している。

賃貸物件が足りないのはなぜか?

まずは不動産プロモーターによる新築が減少した。新型コロナ禍後、建築資材の価格高騰や納品の遅れ、人手不足や人件費の上昇などの要因が重なって建築コストが増大し、不動産価格は上昇した。その一方で、金利が高騰。住宅を買おうとする人は通常、住宅ローンを組むのだが、所得に対する返済額の比率などの制約が厳しくなってローン審査が通らない、または希望していた金額を借りられない、などの理由で住宅購入を断念するケースが増加した。ローン審査のハードルが上がったのは、中古物件購入の場合でも同様だ。

FNAIM(不動産業連盟)によると、フランスではこの10年間で、持ち家率が57.8%から57%に減少した。持ち家率が1%減少すれば、賃借世帯は24万件増加する。

新居を購入できなければ、賃借人は必然的に現在の住居に留まる。Fonciaが管理する物件では、2025年1~6月における入居者からの解約件数が3%減少したという。既存の賃貸物件で入居者の回転率(入居者が交代する頻度)が下がったという認識は、他の不動産管理会社やFNAIMにも共有されている。逆に、賃貸契約解約後に家主が物件を再度賃貸に出した件数は5.9%減少した。Fonciaによると、昨今では、賃貸契約が解約された際に物件を再度貸し出す意向を持つ家主は全体の3分の1しかおらず、3分の1が売却を希望、残る3分の1は工事を検討している。賃貸をやめる家主が増えれば、市場に出る賃貸物件は減少していく。Fonciaでは、この状況は2027年まで改善しないと予測している。

エネルギー性能診断(DPE)で評価の低い住宅の賃貸が禁止されたことも、原因の1つと考えられる。DPEで最低評価の「G」ランクに分類された物件は、2025年1月から、新たな賃貸契約の締結や現行契約の更新が禁じられている。

DPEとは、住宅や建物のエネルギー消費量と温室効果ガス排出量を計算して、評価をAランクからGランクまでの7段階で表示したものである(図1)。欧州レベルのエネルギー政策に沿っており、フランスでは2006年に導入され、2011年からは不動産広告にDPE表示が義務付けられた。住宅に関しては、Gランクの物件が2025年から賃貸が禁止となり、次に評価が低いFランクの物件が2028年から、Eランクの物件が2034年からと、順に賃貸を禁止される。国土環境住居省(当時)によると、2024年1月1日現在でFまたはGランクの420万戸の住宅(別荘を除く)のうち、160万戸が賃貸物件だった。評価が改善されるような断熱対策工事を行うことも可能だが、所有者が断熱対策をしなければ、これだけの数の物件が賃貸市場から退場することになる。

ちなみに、DPEの当初の計算方式では温水器の比重が大きく、小住宅のエネルギー効率が実態より低い評価を受けるとの批判があった。そこで、2024年7月に40平米以下の住宅の計算方式が改正され、この措置で14万戸がGランクまたはFランクを脱することになった。また2026年1月からは、電気暖房を従来より有利に扱うよう電力の変換係数が引き下げられて、85万戸がGランクまたはFランクから外れる予定だ。

【図1 DPEの例】

出典:https://www.ecologie.gouv.fr/politiques-publiques/diagnostic-performance-energetique-dpe

学生たちはどう対応しているか?

賃貸住宅難の渦中にある学生たちの対応はというと、解決策として、4~5室以上の広い物件を何人かで共同賃貸(Co-location)することは以前から行われていた。そのメリット・デメリットも言い尽くされた感がある。

または、前の入居者が引き払ってすぐの6月から契約して、新学期が始まるまでの家賃数カ月分を余分に支払ってでも住宅を確保する。

あるいは、民事賃貸契約(Bail civil)で契約する。本来は、主たる住居を別に持っている人が職業上の必要から短期で賃借する場合の契約で、通常の住宅賃貸契約(Bail d’habitation)より家主側に制約が少ない。

当然の結果として、学生側の家賃負担は重くなる。L’Etudiant(15~25歳向けに教育情報・オリエンテーションを提供)の調べでは、全国の学生の月額家賃の中央値は、2016年の383ユーロから2025年には453ユーロになった。パリ市では2016年の774ユーロから2025年には905ユーロになった。

さらには、新たな解決策として、大学近くのキャンプ場で生活する学生がメディアで紹介された。キャンプ場の宿泊料には光熱費も管理費も含まれ、Wi-Fiや洗濯機はもちろん、その他の設備やサービスなども無料で利用できるため、市中のワンルーム賃貸と比較しても金銭的に引き合うという。同じキャンプ場には何人もの学生が住んでおり、学生寮のような感覚でもあるようだ。キャンプ場にとっては、閑散期に施設を学生に提供することで収入が補われ、設備の維持にもつながる。

賃貸物件への投資が減ったのはなぜか?

まずは税制改正が挙げられる。個人が新築物件や改装工事が必要な中古物件を購入して賃貸する際の優遇税制「Pinel法」の適用が2024年末で終了した後、投資が激減した。FPI(不動産プロモーター連盟)の調べでは、2025年1~6月期に個人の新築物件投資は前年同期と比べて半減したという。

また、民事不動産会社(SCI)を通じて賃貸物件を所有している場合に、共同所有者間で意見が分かれて方針が定まらず、前の賃借人が退去した後、空き物件のまま時間が経ってしまう例も多い。SCIは、家族・親族が不動産を共有するのに便利な法形態であるため広く利用されている。しかし、DPEでGランクの物件を、売却するのか、断熱対策工事を施すのか、その費用分担または融資をどうするのかなどで、共同所有者が合意に至らないと、物件は賃貸市場から退場したまま何カ月も、時には何年も経過してしまう。

家賃の値上げ規制、DPEのランクを上げるための断熱対策工事、金利の上昇など、諸要因による採算性の低下を嫌って、売却を選択したり、民泊への転換を図る家主もいる。民泊であれば、従来の住宅賃貸の2~3倍の家賃収入が期待でき、迅速に投資を回収できるという目論見だ。

賃貸物件を増やすための政策

民泊の隆盛によって、特に観光都市において、住宅価格は高騰し、住民用の賃貸物件は減少の一途をたどり、一般の住民が市内から締め出されるほどの住宅不足が社会問題となっている。また民泊においては、ホテル業界から不当競争の訴えも絶えない。これに歯止めをかけるため、対策を取り始めた自治体もある。

民泊抑制の先駆者であるパリ市は、2017年12月から自宅を民泊に提供する人の登録制度を導入し、民泊プラットフォームに登録番号の表示を義務付けた上、自宅の貸し出し期間は年間120日を上限とした。さらに2025年1月からは、自宅の貸し出し上限が年間90日に短縮された。民泊登録数は減少を始めたが、未登録で不正に民泊を提供する事例は後を絶たない。

ブルターニュ地方のサンマロ市では、2021年に民泊の地区割当て制を導入してその数を制限しようとしたが、まだ効果は上がっていないという。

バスク地方では2023年に導入したミックス賃貸制度(1年のうち最低9カ月を学生に賃貸すれば、残りの期間は観光客向け民泊として提供可能)が成功し、2024年には650件のミックス賃貸契約が締結された。

ディズニーランド・パリのあるバルデュロップ市町村共同体(10市町村で構成)は、2024年秋に、共同体を構成する各市町村で1人1件以上の民泊提供を禁じた上、SCIを通しての物件所有も禁じた。民泊からの収入を封じられて売り物件が増加し、2022~2023年に高騰したディズニーランド・パリ周辺の物件相場は15~20%下落したという。売却も困難になり、最終的に住民向けの従来型賃貸に落ち着く傾向にあるようだ。

空き物件を住宅に転換する試みもある。

不動産開発大手Icade(仏政府系金融機関・フランス預金供託公庫(CDC)傘下)の2024~2028年戦略プランには、空き室になっているオフィス物件の14%を住宅に転換する計画が含まれ、4年間で1億5000万ユーロの予算が組まれている。

2024年パリ五輪の選手村となったセーヌサンドニ県の施設は、当初の計画通りオフィスビルと住宅に転換される。住宅総数は2,800戸以上になり、家族向け物件の一部は売却予定だが、大部分は賃貸用。サンドニ市では賃貸住宅の約3割を学生向けにする。

もともと、「入居まで数年待ち」だった公営低家賃住宅(HLM)の入居申請者もますます増加しており、USH(HLM運営団体連合)によると、2025年6月末時点で287万世帯が空き室を待っている状態だという。2024年には約8万5000戸のHLM新築認可が下り、2025年は年末までに10万戸の新築を政府に申請する予定。民間プロモーターによる住宅新築が落ち込む中、USHでは賃貸需要に応えるため、年間11万戸前後のHLM新築を目標にしていくという。もちろん、政府の助成金と2020年以降急騰した建築コストの抑制が不可欠だ。

2025年9月に退陣したバイルー前首相は、個人による賃貸住宅物件への投資を呼び戻すための優遇税制法案を準備しており、2025年12月以降の賃貸住宅用の物件購入に適用されるように、2026年の予算法案に盛り込むと不動産業界に約束していた。これは不動産業界が強く望んだ法案で、与野党の支持も得られていたようだった。だが、バイルー内閣が総辞職した後、ルコルニュ新首相の予算案からは除外されていた。しかしここにきて、ジャンブラン都市住宅相が、賃貸物件投資への優遇措置を追加する政府修正案を提出すると表明した。詳細は未だ固まっておらず、バイルー前内閣の優遇税制法案に比べると見劣りがするという声もすでに上がってはいるが、今後の予算審議の行方が注目される。

(初出:MUFG BizBuddy 2025年11月)