2021年8月17日 編集後記

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

英国の映画監督ケン・ローチ氏が労働党から除名された。スターマー現党首が率いる党内中道派とコービン前党首が率いる党内左派の抗争が背景にあり、コービン前党首に親しいケン・ローチ監督もコービン派に対するパージの犠牲になったとみられている。コービン派は単に親パレスチナの立場から反ユダヤ主義を標榜したことが問題視されており、スターマー党首は就任に際して、党内から反ユダヤ主義分子を一掃する方針を明確にしていた。ローチ監督もホロコーストの史実性に疑念を呈するかのような発言を行ったことがあり、その後に史実であることは疑えないと訂正したものの、歴史修正主義の疑いがつきまとっている。監督の発言は「歴史はあらゆる人により議論されるべきだ」というもので、それだけをみれば至極まともな内容だが、これは労働党が党大会の機会にホロコーストの史実性を議論する会合を開いたことについて、その妥当性を問われた際の返答であり、典型的な左派系反ユダヤ主義者であるコービン前党首に完全に同調していたのであれば、まことに残念というほかない。映画作品の価値は監督の思想やイデオロギーとは別物だが、今後同監督の作品を見る際に、この問題が脳裏をよぎらないとは限らない。
それにしても、英国労働党といえば、過去に英国の政権を担当し、今後も政権に返り咲く可能性がある立派な政党のはずなのだが、コービン前党首をみていると、イデオロギーというものがいかに人間の思考や感受性を狂わせるかがあらためてわかるし、こういう人物が一つ間違えば首相になっていた可能性に背筋の寒い思いがしないでもない。