2021年8月10日 編集後記

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毎年夏になると、経済的な理由からバカンスをとれない人の境遇が話題になる。休暇旅行(1週間以上)に行けない人の数は、欧州連合(EU)全域で3500万人に上るといい、EUの総人口は4億5000万人弱だから、その8%程度ということになる。もちろん、途上国や最貧国では、休暇旅行に行くなどというのは一部の特権階級のみの贅沢だろうし、今日の食事の確保が最大の課題であるような人々の境遇と比べれば、休暇旅行に出かけられないことは極めて相対的な不幸でしかない。また例えば、特別な目的もなく近所を散策する、といったごく普通に思われる社会的習慣でも、その起源を探ると意外に歴史が浅く、西欧近代以前には遡れなかったりする特殊な行動様式だそうで、まして休暇旅行などというのは、現生人類の30万年の歴史においては、ごくごく最近の特殊な習慣に過ぎないのだから、それほど大仰に考える必要もないのだが、周囲の10人中9人が旅行に出かけて、土産話を持ち帰るような社会においては、出かけられない1人が不満や惨めさを感じるのも無理はない。筆者自身も諸般の理由で(特に経済的理由が大きいが)休暇旅行というものは過去35年間にただの一度も経験したことがなく(別に自慢しているわけではない…)、夏のバカンス期に自宅以外に行き場のない人の鬱屈はよく分かるのだが、ものは考えようで、自宅があるだけ幸運だとも言える。10万年前にはたぶん人類は食料を求めて絶え間なく移動しており、自宅でのんびりすごすなどということ自体がとんでもない贅沢に感じられたことだろう。