セリーヌの手書き原稿発見、関係者間で争いに

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主に両大戦間に活躍したフランスの大作家、ルイフェルディナン・セリーヌ(1894-1961)の未発表の手書き原稿が発見された。発見の経緯を巡る訴訟沙汰に発展している。
セリーヌは第2次大戦中にナチスドイツを支持。戦局が傾いたのを見て1944年6月にパリを離れてドイツ方面に逃れたが、その際にパリの住居に残した大量の手書き原稿が行方不明になった。セリーヌは戦後も一貫して原稿が盗難されたと主張していたが、その真偽を含めて、これまで一切が謎に包まれていた。
今回の発見は、リベラシオン紙で演劇関連の記者を務めていたジャンピエール・ティボダ氏によりなされた。同氏の説明によると、リベラシオン紙の記者を務めていた2000年代中頃に読者から連絡を受け、数千枚に上る原稿の提供を受けた。この読者は、セリーヌの承継人である未亡人が利益を得られないように、その死後に公開してもらいたいと注文を付けたといい、それを守って、未亡人が2019年11月に107才で死去するのを待って、その公開に着手したのだという。
ティボダ氏は2020年6月に弁護士のピエラ氏を相談役として、セリーヌの承継人の一人であるフランソワ・ジボー氏と接触した。ジボー氏ら承継人は発見の経緯について疑義を提起し、同氏を隠匿の容疑で提訴し、検察の命令を経て、原稿は7月になり承継人に返還された。承継人らは、原稿が、セリーヌの会計係を務めていたロザンブリー氏により持ち出されたと疑っており、2020年11月に死亡したその娘から、ティボダ氏が入手したものだと推測。読者からの入手という話は虚偽で、ティボダ氏側が原稿の出版等に関与しようとして原稿の秘匿を続けたと非難している。
問題の原稿には、これまでごく一部のみが刊行されていた小説「Casse-pipe」のかなりの部分、「クロゴルド王」、ロンドン滞在中の体験を題材にした作品の草稿、ロベール・ブラジヤックとの書簡など、貴重な資料が多く含まれる。その刊行には数年から十数年がかかるとみられている。