2020年9月29日 編集後記

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最近のフランスのテレビでは、広告で黒人が登場する頻度が突然に高まった。これはおそらく世界的なBLM運動の影響だ ろう。広告業界もテレビ業界もともに(良く言えば)世の中の動きに敏感であり、(悪く言えば)世の中の動きに迎合 する傾向が強いから、これはわかりやすい変化だが、いささか軽佻浮薄であることは否めない。フランスの人口に占め る黒人の比率は5%程度(300万-350万人)と推定されるが、(「共和国」の法律では「民族集団」などというものはな いという建前があるため)肌の色の違いによる統計調査などは禁止されており、実態を正確に把握することは難しい。 しかし、パリでスーパーのレジやごみ処理作業の光景やパリの北駅から北郊に向かう電車内にいる人々を観察すれば、 フランス人の過半数は黒人だとの印象を持つかもしれない。広告業界の人々もテレビ業界の人々も多くはパリで仕事を しているのだから、フランスに(フランス国籍か外国籍かはともかく)黒人がたくさん住み、暮らし、働いている光景 を日々間近に見ているはずだ。それなのに、これまでテレビ広告に黒人が登場することはほとんどなかった。もしかす ると5%程度は登場していたのかも知れないが、黒人が主要な役割を担っている広告の割合は1%もなかったことは確か だ。そういう広告を何の疑問もなく何十年も作ってきた人々が突然、「あ、黒人の視聴者(とその権利を擁護する人々) にも配慮しなければ」と思いついて、最近の広告を作り始めたのだろうか。そんな上辺だけの見え透いた媚が黒人視聴 者の気にいるのかどうか、黒人でない筆者には分からないが(BLM運動の背景にどんな善意があるにせよ、肌の色の違い を本質的な相違とみなして、それに固執することは、肌の色が異なれば感情や思考を理解し合えず、共有できない、と 人間の間に厚い隔壁を確立する裏返しの人種差別にほかならない)、これほど軽々と世の中の動きに迎合できる人々は、 例えばユダヤ人を敵視するような世論が優勢になれば、またしても世の中の動きに敏感に反応して、率先して密告した り、強制収容所送りに協力したりするに違いない。そもそも、フランスの広告に登場する白人は特別に「白人性」を意 味する記号として登場するわけではないが、最近登場した黒人は明らかに「黒人性」を意味する有徴の存在としてそこ に異物の見本のように置かれている。これ以上のあからさまな差別もないだろう。テレビ局はなにか正しいことでもし ていると勘違いしているのだろうが、当分の間、おぞましい広告を見せられるはめになりそうだ。