2020年6月16日 編集後記

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フランスの大手自動車メーカーPSAはフランス国内の工場で、非正規従業員を雇うかわりに、新型コロナウ イルス危機で休業中のポーランド工場の正規従業員を招いて勤務させる予定だったが、フランスの労組や政 府から批判されて、計画を断念した。法的には何の問題もない計画であり、EU域外からならともかく、労働 力の移動の自由が保証されているEU内での労働力の融通にこのような反対圧力が行使されるのは不当ではな いかと思うし、ポーランドの労組も反発している。もちろん、まさしく新型コロナウイルス危機の影響で失 業の急増が懸念されるフランス国内で抗議の声があがるのことは心情的にはよくわかるのだが、そもそも 「欧州は一つ」と本気で信じていれば、こうした反感が公式の決定に反映されることはなかっただろう。ポ ーランドがハンガリーなどと並んで西欧諸国とは異なる価値観を支持していることも、もしかするとフラン ス人の反発の背後にあるのかも知れず、相手が例えば隣人であるスペイン人やベルギー人なら、もっと受け 入れやすいのかも知れないが、EUにおいても国境や国民の壁は簡単には超えがたいことが再確認された。コ ロナ危機の教訓の一つは、国境は安易に開放したりしないほうが安全だ、というものだが、欧州各国は経済 的利益を考慮して(エゴ丸出し)、外国からの観光客受け入れは急いでも、労働力の受け入れには必ずしも 向かおうとしない。こうした現実原則の前に、欧州統合の夢はますます夢想でしかないような気もしてくる。