2020年6月2日 編集後記

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建造物の梱包で有名な美術家クリストが亡くなった。ブルガリア生まれで、奥さんだったジャンヌクロード と出会ったパリなどを拠点に活躍した。梱包という行為が「アート」なのかどうか、「作品」と言えるのか どうかは議論があるが、壮大なパフォーマンスであることは間違いがない。後世に残すことは最初から考慮 していないが、これは大掛かりなインスタレーション作品にも共通の性格といえるだろう。インスタレーシ ョンの場合、美術館で再現して展示したり、保存することは不可能ではないが、設置環境が変われば意味合 いも損なわれてしまうリスクがある。クリストの梱包にはむしろ一期一会的な考え方があるのかも知れない。 「代表作」の一つとされる「梱包されたポン・ヌフ」は1985年の秋に2週間だけ披露された。筆者はパリに 住み始めて1年足らずだったが、散歩がてらにこの評判の「作品」を見学し、外側から眺めるだけでなく、 布に包まれた橋の上を多くの野次馬の一人として歩いてみた。それで自分の人生が変わったとは思えないが、 35年後も記憶に残る「事件」であったことは確かで、記憶の美術館には今もしっかり展示され続けている。 「事件」には社会システムの連続性を断ち切り、閉鎖性に風穴をあける効果があるが、そのような不連続性 や開放性を、建造物や風景を布ですっぽり封じ込める梱包という行為で実現したのは逆説的と言えるだろう。