2020年5月5日 編集後記

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レジリエンスという言葉がある。外的な力による歪みを跳ね返して元の形を復元する力を意味し、もともとは物理学用語だったのが、PTSDなどからの回復力を意味する心理学用語となり、日本では福島事故のような 災害からの回復力を指す言葉としてもしばしば用いられている。弾力性や柔軟性を伴う「しなやかな強さ」というニュアンスがある。フランスでは精神科医・神経学者・動物行動学者のボリス・シリュルニクなどが広く紹介したコンセプトとして知られているが、「人の心には自然な回復力が備わっている」という言い方に対しては「それを言ったからといって何が変わるの?そもそも最初からあるものなら、治療者の介入の余地もないだろう」という皮肉な声もないではない。しかし現在のようなパンデミック危機で個々人に求められているのはまさしくこのような「しなやかな強さ」だろう。
パンデミック対策ではまず政府の迅速かつ適切な対応が重要なのはもちろんで、医療制度と巨額の資金を動員して市民の健康や経済を保護することは個人のレベルでは不可能だ。しかし、国ができることには限界がある。国がやるべきことをやった上で、感染防止の基本は個々人の行動にあることはいうまでもなく、健康の維持は各人の課題だ。また経済危機のさなかでどこの国でも貧富格差がさらに拡大することも不可避だろう。こうした状況で各人にできるのはローカルなレベルでの連帯やネットワークを通じたしなやかな抵抗であり、小さな日常的努力を重ねて、少しずつ生活環境を改善していくことだろう。日々の暮らしの中で今日からすぐに開始できる「マイクロ・レジスタンス」に各人が自主的に取り組むことが、パンデミック危機からの立ち直りを加速するための最終的なカギになりそうだ。