新型コロナウイルス禍の中で、年金改革に関する議論はすっかり霞んでしまった。近い将来に再開されるのは絶望的な展開となった。
年金改革法案は、3月初頭に下院を通過した。法案には野党側が強く抵抗したため、政府は憲法第49-3条の規定を利用し、内閣信任と抱き合わせで採決なしで採択を強行した。ちなみに、下院はこのとき、重要法案の審議が立て込んでおり、そうした中で、下院がクラスターとなり一連のコロナウイルス感染が発生したという一幕もあった。年金改革には労組が強く反対し、年末年始には大規模な交通ストが発生したが、政府はそれでは譲らず、ストは下火となり、法案の下院通過が実現したわけだが、その後に新型コロナウイルスの感染が拡大、政府は外出制限に踏み切り、それに伴う経済の混乱の中で、年金改革どころではなくなった感がある。ある閣僚も、「年金改革は重荷になっていた。次の大統領任期に持ち越しではないか」と言明しており、外出制限明けの経済対策には幅広いコンセンサスを必要とすることもあり、改めて火種の年金改革を持ち出す政治的な利益は政府にはほとんどない。
推進派は、ポイント制の導入による年金制度の一元化という改革の当初の目標が、農業従事者や女性といった、現行制度では不利な立場にある人々をより平等に処遇することにあったことを挙げて、この層の人々は今まさに処遇されるべき人々だとして、改革を推進する意義は大きいと強調しているが、労組側は、協力的だった改革派労組を含めて否定的な見解を示している。経営者団体MEDEFのルードベジュー会長も、今はもう優先課題ではないと述べており、推進力は期待できそうにない。