2019年12月10日 編集後記

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フランスの代表的な文学賞であるゴンクール賞が、今からちょうど100年前の1919年12月10日にマルセル・プルーストに 授与された。1903年に開始した同賞は今ほど権威がなかったうえに、当時は新人賞としての位置づけが強く、前評判で は第一世界大戦の戦場での体験に基づく『木の十字架』がすでにベストセラーになっていた30代の新進作家ロラン・ド ルジュレスが圧倒的に有力視され、すでに少しとうがたっていたプルースト(48才)は名前すらあがっていなかったの だが、文学界や社交界の人脈を動員して直接間接に審査員に働きかけるなど活発な運動を展開して、逆転勝利を飾った。 戦争文学が花盛りだった当時、出征もせずに社交界やブルジョワの世界での恋愛などを延々と描く退廃的作家とみなさ れていたプルーストの受賞は当時の新聞で批判を浴び、ゴンクール賞の信用に泥を塗るもので、賞自体の消滅を招くだ ろうとの手厳しい意見もあった。結果的に20世紀を代表する大作家の初期作品に授与されたことでゴンクール賞の権威 は高まったわけだが、当時の人からみたらプルーストはさぞや嫌なやつに見えたに違いない。ドルジュレスは悪い作家 ではないが、プルーストの不運な対抗馬として文学史に名前が残った感もある。なお、プルーストはどうも10日がその 日であることを忘れていた模様で、家でいつもどおり寝ていた。家政婦のセレスト・アルバレから受賞を知らされた際 の第一声は「あ…」というあっけないものだった。駆けつけた出版社の社長らにもそっけなく、いったんは追い返しそ うになったというから呑気な話しだ。