移民の命名、同化の意志との関連は希薄

フランス国立人口研究所(INED)は4月10日、フランスの移民とその子孫による子供の命名に関する研究報告書を発表した。社会学者のバティスト・クルモン氏と社会人口学者のパトリック・シモン氏が、INEDと国立統計経済研究所(INSEE)が2008-2009年に2万2000人を対象に実施した調査に依拠してまとめた。フランスでは民族的・宗教的相違に基づく調査が規制されているために、こうした調査は希少。
なお、マグレブ出身移民(ベルベル人)の第2世代でもある右派の論客エリック・ゼムール氏はアラブ・イスラム系移民が子どもに伝統的なフランス風の名前をつけないことは、フランス社会・文化への同化を拒否する共同体主義的な傾向を反映していると主張して論争を招いているが、クルモン、シモンの両氏は、子どもの命名が多数派の選択に近いか遠いかだけで、フランスへの同化の意志を判定することはできないと強調し、また親の政治的信念が子どもの命名に反映されることも稀だと指摘している。
命名の傾向を左右する要因は数多いが、そもそも1990年代に法的規制が緩和された結果、フランス人全体の名前の選択にも大きな変化が起き、選択肢が大きく拡大した。1986年には新生児の半数をカバーする主要な名前は80種類だったが、2008年にはこれが200種類以上に増えた。また1980年代から1990年代にかけては英語系の名前が流行し、伝統的なフランス風の名前が後退した。
移民系家族の場合は、フランスに移住したときの年齢、配偶者がフランス人かどうか、母国とのつながりが強いかどうか、フランスの社会空間内での位置、などの要因に左右される面があるが、大きな傾向として、南欧諸国(スペイン、イタリア、ポルトガル)出身の移民の場合は、第2世代の命名においてすでにフランス風の名前を選択するのに対して、マグレブ(北アフリカ)出身の移民の場合は第2世代でも3分の2程度がアラブ・イスラム風の名前を持ち、第3世代になってはじめて多数派に溶け込むが、その場合も、伝統的なフランス風の名前よりも、ヤニス、イネス、ミラ、ルナ、ナエル、リアム、エタン、アダムなど、より国際色の強い名前をつける傾向がある。多数派のほうでも似た傾向があるため、双方がこうした無国籍的な命名に向けて収斂するという現象がみられるという。ただし、マグレブ出身の移民でイスラム教の信仰が厚い場合には宗教色の強い名前を選ぶ比率が非常に高い。
なお、アジア出身の移民の場合は、自分の姓と名がフランス人から混同されたり、名前の性別が理解されなかったりする不便があるために、子ども(第2世代)にはフランス風の名前をつける傾向が強い。クルモン、シモンの両氏は、これは同化の意欲というよりも、実際的な便宜のためと考えられると判断している。