農耕の発達で発音に変化=研究結果

唇歯音と呼ばれる音素(fとv)の普及には農耕の発達が影響しているとする研究結果がこのほどサイエンス誌に掲載された。この論文は、言語進化論専攻のDamian E. Blasiらがまとめた。現在も使用されている世界の7000程度の言語のうち、半数足らずで唇歯音は用いられていない。このような差がある理由として、米国の言語学者チャールズ・ホケット(1916-2000)は1985年に、狩猟採集民族と農耕民族の間の違いに由来しているとの仮説を提出。狩猟採集民族においては、食物が固いため歯が早く摩耗し、唇歯音の発音が困難であるため用いられず、農耕民族では食物がより柔らかく、歯がよく保存されるため、唇歯音の利用が発達したとする説で、今回の論文はその検証を試みている。具体的には、まず、上下の切歯が保存されている人は、保存されていない人より唇歯音の発音にかかる労力が29%少なくて済むことを実験的に把握。次いで、現存の狩猟採集社会の言語を調べ、唇歯音の使用が明らかに少ないことを確認した。最後に、インドヨーロッパ語族の歴史的変遷を見ても、2000年から3000年前を境に唇歯音の使用が大きく増えており、農耕の普及との相関性を示唆しているとした。
この研究について、パリ第3大学のドモラン教授(実験音声学)は、かつて存在していた唇歯音が使われなくなるという逆の道筋はないという証拠が一切挙げられていないことと、発話を聞き取り理解する状況の如何により音素の選択が左右されるという側面が考慮されていないことを挙げて、その結論には疑念があると指摘している。